「次の時間の体育なんだけどさ。なんか、みんながお前の転入祝いしたいらしいから、先生には内緒で着替えたら校庭集合な」



「え、それ先生に怒られない?」



「まあ、5分くらいなら意外といけるよ」




 と半袖短パンのまま雪が降る校庭で雪合戦をさせられた時は、さすがに凍死するかと思ったけれど。彼の提案でクラスメイト全員が平等に半袖短パンだったし。鼻先と頬を真っ赤にした彼が悪戯を成功させた子どもみたいに歯を見せて笑った瞬間、かじかんだ指先も温まってしまうし、身体の震えも止まってしまったのだから不思議だ。クラスメイトたちも松雪の周りだと心なしか笑っていることが多い気がする。それはきっと彼ゆえなのだろう、と出会って数日でもわかる人柄の良さが松雪の魅力だ。




 周りにつられて笑いながら、両手を胸の前でぎゅっと握りしめれば




「あ、もしかして寒かったか? ごめんな」




 と頭に乗せられた手はあたたかくて大きかった。かんたんに振りほどけるくらいの力加減を脳天に感じながら、きっと今自分の頬も松雪と同じくらい紅くなっているんだろうなとぼんやり考えていた。「なにしてんだ。風邪ひくぞ」と体育教師に怒られた時には、クラス全員雪まみれになって互いの姿を見て笑いあっていた。半袖短パンでいるのに容赦なくおおきな雪玉をぶつけてきた時は、さすがに松雪のことを悪魔かと思ったけれど。





 たまたま自分たち家族の引っ越し先が彼の家から徒歩五分圏内にあった。ただそれだけなのに、通学の面倒まで見てくれるような、大枠において松雪はやさしくてあたたかい人だった。そんな彼だからこそ、学校でも通学路でも彼といる時間が増えるのは自然のことで。





 だからこの1週間で初めて「今日は一緒に帰れない、ごめんな」と謝っていそいそと先に帰ってしまった彼の背中を半分呆れ顔で見送った時は、まさか松雪に会うのがそれきりになるとは思ってもみなかったのだ。