突然聞かされた訃報に教室の何人かが短い悲鳴をあげ、そのうち何人かの女子は鼻水を啜り上げて泣き出した。





 いや、実際には死んでしまったのかもしれない、くらいのニュアンスの方が正しいらしい。松雪の死体を見た人は、まだ誰もいないのだから。





 そう情報を付け加えた先生の声を掻き消す嗚咽に辟易としながら、机の上に頬杖をついた。それから誰にも聞こえないよう、そっとため息を吐きだす。





 彼のことだから、明日になればひょっこり「勝手に殺すなよな~」なんてへらへらと笑いながら教室に顔を出すかもしれないのに。なんでそんなに騒ぐのだろう、と必死に冷静さを保とうとする気持ちに水をさすかのように「……松雪は、死んだ」と教壇に立った先生は顔を俯けて自分自身に、そして教室中に言い聞かせるように一段と強く言い放った。





 昨夜、学校の裏山で起こった軽い地滑りが原因の雪崩。それに彼は巻き込まれてしまったらしい。なぜ松雪がそんな時間に裏山にいたのかはわかっていない。クラスメイトや松雪の親さえも、その理由を知る者は誰もいなかった。





 けれど現場に残された彼の凍りついた靴と現在消息を絶っている状況から鑑みて、彼は雪崩に巻き込まれて死亡した可能性が高い、と警察は答えを出したという。反対に生きていたとしても、救助するには昨夜から今朝まで降り続いた雪を掻き分ける時間が必要になるらしく今のところ彼が助かる可能性はゼロに等しいらしかった。






 あえて『絶望的』と彼の生きている可能性を表現した警察は心底意地が悪いと思った。人道的観点から生死不明の場合は、どれだけ可能性が低くとも0ではない限り『生きている前提』で捜索される。そのくせ、捜索するのは雪の中ばかり。生きている人間を探しているようには見えない。みんな松雪は死んだ、こんな中で生きていられるはずがない、と心のどこかでわかっているような顔をしているのが許せなかった。ひとりぽっちの高校生に許されようと許されまいと彼らには関係ない。そんなことわかっていた。





 けれどそれがただ情報を待つことしか出来ない側の人間には、鉛よりも重たく心の奥に圧し掛かる残酷さと自分自身の無力さを感じさせずにいられなかった。彼が帰ってきたら伝えたいことが山ほどある。でも今はそれらをすべて口の中で溶かすしかなかった。





 「だからか捜索活動は二次被害が出る前にと、松雪の足跡ひとつ見つけてもらえずに早々に打ち切られてしまった」と淡々と続けた先生の言葉を右から左に聞き流しながら、唇を強く噛み締めた。それから少しでも冷静になろうと、窓の外に目を向ける。






 教室内がこれでもかと暖房が効いているからか、曇っていたガラスを制服の袖で拭いて綺麗にする。曇りが取れた窓の向こうでは、今日も淡い灰色の空からゆっくりと雪が降ってきていた。この町に来てから、変わり映えしない景色。淡いグレーに染まった空も、東京と比べて断然水分量の少ない雪がひらりひらりと舞い落ちるのにもようやく慣れてきたというのに。窓にぼんやりと映る教室の中で、隣にいたはずの松雪の席だけぽっかりと空いている。





 なにひとつ変わらない景色の中で、松雪だけがいなかった。