体育館内にこだまするホイッスルの音とシューズが床を擦る音が響く。コートを駆け回る生徒たちの足音がリズムを刻む度に床が軽く軋むような音が広がる。
「いくぜっ! 受けてみよ! 俺のウルトラミラクルサァーッブッ!!」
「ダッせ! ネーミングからして、ぜってーしょっぼい奴だわ!」
「馬ぁ鹿! 帰宅部歴11年目の実力を舐めるなよぉ?」
「はいはい、早よ打てスペシャルサーブとやらを」
「くそぅ。食らえ! ウルトラスペシャル……まぁなんでもいいやサーッブ!!」
見守っていた全員の予想に反し、意外に良い球筋のフローターサーブはネットをかすめて相手のコートに入る。
「ぅおっと!」
前衛ライトが慌ててボールをレシーブであげ、横にいた現役バレー部員がトスをあげる。
「来るぞ! 赤城! 持田!」
アタッカーがボールを打ち込む。それを前衛二人でブロックして相手コートに返した。ボールは体勢が整っていなかったアタッカーの足に当たり、コートの外へと転がっていく。
ピィィ!
鋭くホイッスルの音が響き渡り、スコアボードがめくられる。
「ナイスー! 赤城!」
「かっけー! 持田ー!」
見学の生徒から歓声が上がる。
「ナイス! 赤城!」
「持田こそ!」
赤城と持田は笑顔でお互いパン! とハイタッチしたが、赤城だけが「あいたた……」と顔をしかめる。
「ん? どしたー? って、爪割れてんじゃん! もしかしてさっきのブロックで? うわ、いったそー……」
「いや、これくらい大丈夫っしょ。ほら、次のウルトラサーブ来るよ」
「ちょっと見せてみ?」
突然ひょっこり顔を出した大塚が赤城の手首を掴む。
「ぁんだ? またケガしたのかよ。センセー! 赤城ケガしたんで宮沢と交代でーす! 宮沢、入ったげて」
見学していた宮沢はいいよ、とすぐに立ち上がる。
「赤城、お大事にー」
「えっ? あ、ああ。ありがと、宮沢」
「赤城、大丈夫かー?」
眠そうな顔で体育教師が端末画面から顔をあげる。
「あー、今赤城専用の保健委員の発注しといたんで大丈夫でーす!」
大塚が印籠よろしくスマホ画面を体育教師に見せる。
「おう、そうかそうか。いつもの奴な。よし、みんなー。試合に戻れー」
「大塚。これくらい大したことないって」
大塚は有無を言わせず赤城の手首を掴んだまま、片手でスマホを操作しながら体育館のドアの前に連行する。
「お前がケガしたらすぐ連絡寄越すように言われてんだって」
「連絡って……。あいつも授業中だし、そんなすぐに来られるはず……」
ガラリと音を立てて体育館の扉が開く。そこには救急箱を手にした保健委員副委員長が立っていた。
「白戸⁉ お前授業中……ってか早過ぎんだろ⁉」
思わずぎょっとして赤城が突っ込みを入れるのを、白戸は何事も無かったかのように受け流す。
「大塚先輩から今日はバレーって聞いてましたんで、そろそろかな、と」
大塚は赤城の手首を掴んだまま白戸に向かって揺らす。
「一年の教室からここまで2分かからんとかヤベーだろ。お前ほんとに教室にいるの? 瞬間移動とかできるタイプ?」
「僕大塚先輩と無駄口叩くほど暇じゃないんで。で、今日はどこです?」
無愛想な白戸の態度を全く意に介さず、大塚は掴んでいた赤城の手を白戸に差し出した。
「あー、はいはい。こっちの手の爪ちっと割ったらしい。じゃ、白戸。あとは任せた」
「わかりました。連絡ありがとうございました。じゃ、赤城先輩、行きましょうか。とりあえず傷口を洗わないと」
「……はぁい」
赤城は白戸に連れられるまま、体育館外に設置された手洗い場の流水で手を洗い、清潔なハンカチで拭く。
隣で手を洗っていた白戸はさっさと手を洗い終えて自身の手をアルコールジェルで消毒し、救急箱を開ける。
「ケガをしたのは爪だけですか? 突き指とかはしていませんか?」
「突き指はしてないよ。爪がちょっと割れただけ」
「少し触りますね。痛かったら言ってください」
「わかった」
白戸の細く長い指が赤城の割れた爪を優しく撫でる。
「少し出血した痕があるみたいですが、もう血は止まっていますし爪自体はひどく浮いたりもしていないみたいですね。着替えの時に引っ掛けないよう、簡単にテーピングしておきますね」
手際よくテーピングされてゆく指先。あまりにも舞うように軽やかに動くので、赤城は思わずその手技に見入ってしまう。
「少し曲げ伸ばししてみてください。動かしにくかったら直しますんで」
「ん」
テーピングされた方の手をグーパーしてみる。ゆるまないようにしっかり巻いてあるが、関節の部分は巻きを少なめにしてあるのか、見た目の割には動かしにくさは感じない。
「おお! いい感じ。動かしやすい。毎度のことながらすごいな、お前」
「僕も毎度のことながら先輩のことすごいと思ってますよ。体育といえばほぼ毎回ケガしてませんか? それでなくともしょっちゅう切り傷や擦り傷作ってくるのに」
「なんでだろうな? そんなに運動神経悪い方じゃないと思うんだけど」
「もう少しケガをしないように自分でも注意してください。じゃ、僕教室戻りますんで」
「ん。ああ、授業抜けさせて悪いな。ありがと、白戸」
笑顔でテーピングされた指をひらひらと動かす赤城に白戸は一つ頷いてから背を向ける。と、すぐに振り返って言う。
「あ、それ、一応仮止めしてる状態ですのであんまり強くぶつけると爪完全に割れますから、今日のバレーはこのまま見学してくださいね」
「えぇーっ⁉ つっちーと得点王対決してんだってー。購買のティラミスパン賭かってんの」
「それ以上割れたら爪まるごと剥がれるかもしれませんよ。そうなれば晴れて病院行きです。パンの値段どころじゃないんでおとなしくしててください」
「むぃーっ」
戻ってきた白戸は問答無用、片手で赤城の両頬を痛いぐらいの力で掴む。
「返、事!」
「あだだだだ。はいはーい」
「じゃ、お大事に」
ぱっと赤城の頬から手を離し、姿勢よく立ち去る背中を見つめ、赤城は思わずにやりと笑ってしまう。
「……ほんと、おせっかいよなー」
テーピングされた手を頭上にかざすと、白戸が使っていた消毒ジェルの香りがふわりと鼻をかすめた。
「お疲れさーん。治療終わったか?」
背後から声をかけられて振り向くと、体育館の扉にもたれかかってスマホをいじっていた大塚が声をかけてくる。
「ああ。待たせて悪いな」
「お。結構重症っぽい?」
「こんな感じ」
テーピングされた指先を見せると、大塚は赤城の手のひらを裏表に返して仕上がりを眺めてから手を放す。
「まー。相変わらずお綺麗なテーピングだこと。白戸は何て?」
「爪割れてるから悪化しないよう残りの体育見学しろって」
「うっは。毎度ながら過っ保護ー」
「ま、病院代考えればティラミスパンの値段なんか微々たるもんですしー?」
赤城は白戸の言葉を借りながら、さも自分はガキくさい行動はしない、とばかりに胸を反らせる。
「へぇ?」
大塚は何か言いたげに片方の口元だけでにやりと笑んだ。
「っつかさ、大塚、お前クラスの保健委員だろ? 何自分の仕事放っぽりだして白戸呼びつけてんの?」
「俺はあくまでヒラの保健委員。学年下とはいえ保健委員副委員長には立場的に敵わんのですよ」
「いや、学校の委員会活動にそんな上下関係って無いだろ」
「いいじゃん。赤城は丁寧な治療を受けられる。白戸はモルモットに人体実験ができる。俺は空き時間を有効に使ってゲームを進めることができる。これほど無駄の無い三方良しな関係があろうか!」
「誰がモルモットだよ。大塚の職務怠慢ってだけの話だろ?」
「いやでもさ、実際冷静に考えてみ? あいつの医療知識と治療の的確さ。テーピング技術だけでもプロ並みよ? その恩恵を受けないなんて勿体ない。せっかく赤城には懐いてるんだから、存分に享受すればいいだけだろ」
「まあ確かに大塚に治療されること考えると、白戸の方が安心できるよな。お前手先不器用だし」
「その言葉そのままお返しするわー。おっちょこちょい大魔神」
授業終了のチャイムと共に白戸の席に女子生徒が群がる。
「ねぇねぇ白戸君。今日放課後家庭科部でマフィン作るんだけど、白戸君甘いものとか好き?」
「好きじゃない」
一刀両断。女子と目も合わせないまま教科書とノートをまとめて席を立とうとする白戸を、女子たちはくじけることなく話を続けようとする。
「あ、じゃあさ、白戸君の好きな食べ物とかってぇー……」
女子の言葉を無視してスマホを開いた白戸の表情が一瞬にして険しくなる。
「し……白戸、くん?」
眉間に皺を寄せ、こめかみに青筋を立てた白戸は舌打ちをし、勢いよく立ち上がると机の横のフックにかかっていた救急箱を手に教室を飛び出してゆく。
「……白戸君、そんなに甘いもの苦手なのかなぁ……?」
気迫負けして半泣きになる女子に、隣の友人がフォローを入れる。
「いや、違うでしょ。あれはいつもの『アレ』だって」
「『アレ』……?」
白戸は昼休みの生徒でごった返す廊下を大股で突っ切り、上履きを履き替えて中庭に出る。
「あ! 来た来た! 白戸ー! こっちこっちー!」
満面の笑みで手を振る赤城の指のテーピングは拠れて外れかかり、肘近くも新たに5cm程度の擦り傷ができている。
「あんったは何やってんですか!! あれほど安静にしとけって……!!」
「あはは。いやー、bet2倍って誘惑に負けてさぁ」
押し問答する二人の頭上の窓が開く。
「やまとー! やっとゲットできたわー! 降りんの面倒だから投げていー?」
「おっけ! 投げて投げてー!」
白いビニール袋が宙を舞い、赤城が上手にキャッチする。
「やまとナイスー!」
「ありがとなー、つっちー! 白戸! ほら、見て見て! 戦利品!」
ビニール袋の中には購買名物ティラミスパン。が、2個。
「いっつも世話になってんだろ? これめっちゃうまいから白戸にも食わせたくってさ」
ほめて! ほめて!
口に出さずとも感情が溢れる赤城の満面の笑みに戦意を削がれた白戸は小さくため息をつく。
「赤城先輩。先に手当をさせてください。傷口は洗いましたか?」
「おう! いつもお前に言われるから、とりあえず水洗いだけはしといた!」
「ああ、なるほど。肘までびっしょびしょなわけだ。待ってくださいね。ちょっと拭いてから……。あ、指の方のテーピングも直しますから」
「はーい」
赤城は中庭の庭石にちょこなんと腰掛け、擦りむいた肘の手当てを受ける。
「それにしてもよくこれだけ毎度ケガ増やしてきますよね」
「白戸にも見せたかったな。奇跡のスライディングレシーブ!」
「僕がその場にいたら、そもそも試合には参加させてませんから。そういえば大塚先輩は何やってたんですか? 赤城先輩が試合に参加するのを止めてくれたりはしなかったんですか?」
「大塚? つっちーに『ケガしても赤城係がいるから大丈夫』って言ってるのは聞いたけど」
「『赤城係』……」
「ちなみに大塚、昼休みになった途端に俺に『中庭で傷口だけ洗って待て』って言い残してどっか行ったぞ」
「僕に怒鳴られるの悟って逃げたんですよ。それに関しては次回詰めるんで大丈夫です。はい、終わりました」
「おう。いつもながら手際いいな。ありがとう」
「誰かさんのおかげで日々練習させられてるんで」
「あはは。ほら、こっち座って一緒に食べよ」
赤城はおいでおいでと自分の隣をぽんぽん叩く。白戸は赤城の隣に座り、救急箱を自身の膝に乗せた。
「白戸食ったことある? ティラミスパン」
「いいえ。購買のパン初めてです」
「あ、普段弁当なの?」
「はい」
「うちの購買結構斬新系メニューいっぱいあるからたまにはチャレンジしてみ? 普通のスーパーでは買えんレア物もあって面白いよ」
「そうなんですか? いただきます」
赤城から手渡されたパンを恐る恐る頬張ると、ココアパウダーがかかったコッペパンの中にしっかりと苦みの効いたコーヒーシロップとマスカルポーネチーズのクリームが挟み込んであり、少し洋酒の香りもする。素朴な見た目に反して本格派な味に白戸は目を丸くする。
「な? うまいだろ?」
「はい。見た目よりずっとおいしいです」
白戸は食べていたティラミスパンをじっと見つめる。
「……クルミ」
「あっ! いいなー! それ当たりなんだって。なんか材料費の関係で1日1個のティラミスパンにしか入ってないらしいぞ。お前運良いなー」
「へぇ。そうなんですか。先輩、良かったらクルミ食べませんか?」
「おいおい。せっかくの幸運を……。あ、もしかして白戸、クルミ苦手だった?」
「いえ? 2個入ってたんで1個は食べましたよ」
「そ? なら遠慮なくー」
赤城は雛鳥のように口を開ける。白戸は一瞬赤城とパンを交互に見つめ、パンの中に入っていたクルミをつまんで赤城の口に放り込んだ。
「うまー。ココア味と合うわー。幸運のお裾分けありがとなー」
「ナッツ類は爪の再生に良い栄養があるらしいですよ」
「ふぅん?」
赤城はコリコリとクルミを噛み、隣の白戸の横顔を見つめながら小首を傾げる
「白戸ってさ、いつもそんな栄養? とか考えながら飯食ってんの? うまいからーとかでなく?」
「確かに味も大事だとは思いますよ。でも、栄養が偏るから同じ食材ばかり摂取しないようにしよう、とか、あと1品葉物野菜付け加えたらバランス取れるかな、とかは考えますね」
「そんなの考えてたら飯の味わかんなくなんない?」
「むしろ味付けも同じ物ばかりにならないように、とは考えますけど」
「ああ。食べる人じゃなくて、作る人の立場で考えてるからかー」
「赤城先輩は常に食べる側の視点ですよね」
「あはは。確かにー。『美味い』は正義‼」
赤城の笑顔に白戸もつられて小さく笑う。
「そういうのっていいと思います。赤城先輩らしくて」
「白戸が言ってた作る人の考えってのもいいよな。そういう話聞くと、一生懸命作ってくれたんだから食べ残さないで食べようとか、味付け違うならいつも苦手な食べ物だけど今日は食べれるかもとか思うわ」
「へぇ」
「あと、なんか白戸の横にいるだけで栄養のご利益ありそう」
笑う赤城に白戸はぽつりと問いかけた。
「先輩。参考書買ってページ開かないまま頭が良くなったような気分になれちゃうタイプですか?」
「ぅえ⁉ なんでわかんの……⁉」
「実際食べないと栄養は取れません。爪の再生にはナッツ類とか全粒穀物みたいなビタミンB群と亜鉛、あと、ビタミンCも摂取してください」
「ビタミン軍団」
「具体的には肉魚、あと、果物野菜ですね」
「んんー……。覚えきれるかなー」
「好き嫌いせず、食材の種類をたくさんとれば適当にバランス取れますから」
「ああ、それならできるかも! 今から昼ご飯食いに行くからな」
「このパン、昼ご飯じゃなかったんですか?」
「食前パン。前菜みたいなやつ」
「その単語、初めて聞きました」
二人の会話に割って入るように通りかかった赤城のクラスメートが数人声をかけてくる。
「あっ! 赤城! 今からグラウンドで2組の小林達とサッカーやるって!」
「ほんとっ⁉ 行く行く‼」
「って、この子、例の『白戸くん』じゃない?」
「ああ、大塚が言ってた赤城係の」
全員の視線が白戸に注がれ、それから赤城の手の治療跡に移動する。
「……どうする? 赤城入んないと勝てるか微妙だよな」
「この前赤城がいない時、ぼろ負けしたもんな」
「どうやったら白戸くん説得できると思う?」
話し込むクラスメートをよそに、赤城は直接交渉に出た。
「なあ、白戸。サッカーだから、手は使わないよ。サッカー部の公式の試合とかじゃないからみんなスパイクとか履かないし」
「……」
白戸は無言で赤城の手の治療跡を見つめた。
「せっかく治療してくれたとこ、絶対汚さないようにするからさ」
「条件があります」
「はい」
白戸は赤城からつ、と視線を外すと、赤城のクラスメートに向き直った。
「すみません、先輩達の中で今スマホ持ってらっしゃる方は?」
赤城に声をかけてきたクラスメートは「俺持ってる」「俺も」と次々に手をあげた。
「連絡先を交換させてもらえませんか? で、赤城先輩がケガするようなことが起きた場合は僕にご連絡ください。それが条件です」
「ちょ……。白戸。ケガしたら自分で保健室くらい行くって」
「そう言って行かなかったことありましたよね。何度も」
「……そりゃ、そんなに大したケガじゃない時にはー」
「毎回赤城先輩のケガはまぁまぁ大したケガなんで。で、どうします?」
論破される赤城を目の当たりにしてクラスメートは感嘆の声をあげる。
「おお……。これが噂に聞く『赤城係』」
「俺らは赤城が参戦してくれるならいいよ。はい、これ俺のIDね。登録して。名前は『りんたろー』で」
「ありがとうございます。白戸です」
「俺も。赤城がケガしたらすぐ連絡入れっから。名前は『ナオヤ』な」
「はい。よろしくお願いします」
「ま、なるべく赤城にケガさせないよう気ぃつけるから。はい、『ちーちゃん』で登録して」
「お気遣い痛み入ります」
あっさりとID交換を終え、満足気な表情の白戸は丁寧に頭を下げた。
「おいしいパンごちそうさまでした。では赤城先輩。りんたろー先輩にナオヤ先輩、ちーちゃん先輩。いってらっしゃいませ。また後で」
「うん。……え? うん? 後で? って白戸、なんで……」
「はは。旦那見送る奥さんみたい」
「赤城信用されてねぇわ。絶対ケガすると思われてる」
「じゃあね、白戸くん。後でちゃんと赤城返すから」
こうして見送った20分後、白戸は外の水場の傍らで救急箱を持ったままスマホを片手に赤城達の帰還を待っていた。
「あっ! いたいた! 白戸くーん! お待たせー!」
「約束通り、赤城の返却ー」
砂まみれになったりんたろーとちーちゃんが手を振る。
「お疲れ様です。得点はどうなりました?」
赤城とナオヤが満面の笑みでそれぞれVサインを作って見せる。
「2-0で俺らの勝ち! 赤城1点入れたぞ!」
「大活躍でしたね。お帰りなさい」
「ただいま。白戸。約束通り、手のテーピングは死守した!」
そう言って赤城は擦り傷ができて赤くなった頬のまま、白戸に笑いかけた。
「いくぜっ! 受けてみよ! 俺のウルトラミラクルサァーッブッ!!」
「ダッせ! ネーミングからして、ぜってーしょっぼい奴だわ!」
「馬ぁ鹿! 帰宅部歴11年目の実力を舐めるなよぉ?」
「はいはい、早よ打てスペシャルサーブとやらを」
「くそぅ。食らえ! ウルトラスペシャル……まぁなんでもいいやサーッブ!!」
見守っていた全員の予想に反し、意外に良い球筋のフローターサーブはネットをかすめて相手のコートに入る。
「ぅおっと!」
前衛ライトが慌ててボールをレシーブであげ、横にいた現役バレー部員がトスをあげる。
「来るぞ! 赤城! 持田!」
アタッカーがボールを打ち込む。それを前衛二人でブロックして相手コートに返した。ボールは体勢が整っていなかったアタッカーの足に当たり、コートの外へと転がっていく。
ピィィ!
鋭くホイッスルの音が響き渡り、スコアボードがめくられる。
「ナイスー! 赤城!」
「かっけー! 持田ー!」
見学の生徒から歓声が上がる。
「ナイス! 赤城!」
「持田こそ!」
赤城と持田は笑顔でお互いパン! とハイタッチしたが、赤城だけが「あいたた……」と顔をしかめる。
「ん? どしたー? って、爪割れてんじゃん! もしかしてさっきのブロックで? うわ、いったそー……」
「いや、これくらい大丈夫っしょ。ほら、次のウルトラサーブ来るよ」
「ちょっと見せてみ?」
突然ひょっこり顔を出した大塚が赤城の手首を掴む。
「ぁんだ? またケガしたのかよ。センセー! 赤城ケガしたんで宮沢と交代でーす! 宮沢、入ったげて」
見学していた宮沢はいいよ、とすぐに立ち上がる。
「赤城、お大事にー」
「えっ? あ、ああ。ありがと、宮沢」
「赤城、大丈夫かー?」
眠そうな顔で体育教師が端末画面から顔をあげる。
「あー、今赤城専用の保健委員の発注しといたんで大丈夫でーす!」
大塚が印籠よろしくスマホ画面を体育教師に見せる。
「おう、そうかそうか。いつもの奴な。よし、みんなー。試合に戻れー」
「大塚。これくらい大したことないって」
大塚は有無を言わせず赤城の手首を掴んだまま、片手でスマホを操作しながら体育館のドアの前に連行する。
「お前がケガしたらすぐ連絡寄越すように言われてんだって」
「連絡って……。あいつも授業中だし、そんなすぐに来られるはず……」
ガラリと音を立てて体育館の扉が開く。そこには救急箱を手にした保健委員副委員長が立っていた。
「白戸⁉ お前授業中……ってか早過ぎんだろ⁉」
思わずぎょっとして赤城が突っ込みを入れるのを、白戸は何事も無かったかのように受け流す。
「大塚先輩から今日はバレーって聞いてましたんで、そろそろかな、と」
大塚は赤城の手首を掴んだまま白戸に向かって揺らす。
「一年の教室からここまで2分かからんとかヤベーだろ。お前ほんとに教室にいるの? 瞬間移動とかできるタイプ?」
「僕大塚先輩と無駄口叩くほど暇じゃないんで。で、今日はどこです?」
無愛想な白戸の態度を全く意に介さず、大塚は掴んでいた赤城の手を白戸に差し出した。
「あー、はいはい。こっちの手の爪ちっと割ったらしい。じゃ、白戸。あとは任せた」
「わかりました。連絡ありがとうございました。じゃ、赤城先輩、行きましょうか。とりあえず傷口を洗わないと」
「……はぁい」
赤城は白戸に連れられるまま、体育館外に設置された手洗い場の流水で手を洗い、清潔なハンカチで拭く。
隣で手を洗っていた白戸はさっさと手を洗い終えて自身の手をアルコールジェルで消毒し、救急箱を開ける。
「ケガをしたのは爪だけですか? 突き指とかはしていませんか?」
「突き指はしてないよ。爪がちょっと割れただけ」
「少し触りますね。痛かったら言ってください」
「わかった」
白戸の細く長い指が赤城の割れた爪を優しく撫でる。
「少し出血した痕があるみたいですが、もう血は止まっていますし爪自体はひどく浮いたりもしていないみたいですね。着替えの時に引っ掛けないよう、簡単にテーピングしておきますね」
手際よくテーピングされてゆく指先。あまりにも舞うように軽やかに動くので、赤城は思わずその手技に見入ってしまう。
「少し曲げ伸ばししてみてください。動かしにくかったら直しますんで」
「ん」
テーピングされた方の手をグーパーしてみる。ゆるまないようにしっかり巻いてあるが、関節の部分は巻きを少なめにしてあるのか、見た目の割には動かしにくさは感じない。
「おお! いい感じ。動かしやすい。毎度のことながらすごいな、お前」
「僕も毎度のことながら先輩のことすごいと思ってますよ。体育といえばほぼ毎回ケガしてませんか? それでなくともしょっちゅう切り傷や擦り傷作ってくるのに」
「なんでだろうな? そんなに運動神経悪い方じゃないと思うんだけど」
「もう少しケガをしないように自分でも注意してください。じゃ、僕教室戻りますんで」
「ん。ああ、授業抜けさせて悪いな。ありがと、白戸」
笑顔でテーピングされた指をひらひらと動かす赤城に白戸は一つ頷いてから背を向ける。と、すぐに振り返って言う。
「あ、それ、一応仮止めしてる状態ですのであんまり強くぶつけると爪完全に割れますから、今日のバレーはこのまま見学してくださいね」
「えぇーっ⁉ つっちーと得点王対決してんだってー。購買のティラミスパン賭かってんの」
「それ以上割れたら爪まるごと剥がれるかもしれませんよ。そうなれば晴れて病院行きです。パンの値段どころじゃないんでおとなしくしててください」
「むぃーっ」
戻ってきた白戸は問答無用、片手で赤城の両頬を痛いぐらいの力で掴む。
「返、事!」
「あだだだだ。はいはーい」
「じゃ、お大事に」
ぱっと赤城の頬から手を離し、姿勢よく立ち去る背中を見つめ、赤城は思わずにやりと笑ってしまう。
「……ほんと、おせっかいよなー」
テーピングされた手を頭上にかざすと、白戸が使っていた消毒ジェルの香りがふわりと鼻をかすめた。
「お疲れさーん。治療終わったか?」
背後から声をかけられて振り向くと、体育館の扉にもたれかかってスマホをいじっていた大塚が声をかけてくる。
「ああ。待たせて悪いな」
「お。結構重症っぽい?」
「こんな感じ」
テーピングされた指先を見せると、大塚は赤城の手のひらを裏表に返して仕上がりを眺めてから手を放す。
「まー。相変わらずお綺麗なテーピングだこと。白戸は何て?」
「爪割れてるから悪化しないよう残りの体育見学しろって」
「うっは。毎度ながら過っ保護ー」
「ま、病院代考えればティラミスパンの値段なんか微々たるもんですしー?」
赤城は白戸の言葉を借りながら、さも自分はガキくさい行動はしない、とばかりに胸を反らせる。
「へぇ?」
大塚は何か言いたげに片方の口元だけでにやりと笑んだ。
「っつかさ、大塚、お前クラスの保健委員だろ? 何自分の仕事放っぽりだして白戸呼びつけてんの?」
「俺はあくまでヒラの保健委員。学年下とはいえ保健委員副委員長には立場的に敵わんのですよ」
「いや、学校の委員会活動にそんな上下関係って無いだろ」
「いいじゃん。赤城は丁寧な治療を受けられる。白戸はモルモットに人体実験ができる。俺は空き時間を有効に使ってゲームを進めることができる。これほど無駄の無い三方良しな関係があろうか!」
「誰がモルモットだよ。大塚の職務怠慢ってだけの話だろ?」
「いやでもさ、実際冷静に考えてみ? あいつの医療知識と治療の的確さ。テーピング技術だけでもプロ並みよ? その恩恵を受けないなんて勿体ない。せっかく赤城には懐いてるんだから、存分に享受すればいいだけだろ」
「まあ確かに大塚に治療されること考えると、白戸の方が安心できるよな。お前手先不器用だし」
「その言葉そのままお返しするわー。おっちょこちょい大魔神」
授業終了のチャイムと共に白戸の席に女子生徒が群がる。
「ねぇねぇ白戸君。今日放課後家庭科部でマフィン作るんだけど、白戸君甘いものとか好き?」
「好きじゃない」
一刀両断。女子と目も合わせないまま教科書とノートをまとめて席を立とうとする白戸を、女子たちはくじけることなく話を続けようとする。
「あ、じゃあさ、白戸君の好きな食べ物とかってぇー……」
女子の言葉を無視してスマホを開いた白戸の表情が一瞬にして険しくなる。
「し……白戸、くん?」
眉間に皺を寄せ、こめかみに青筋を立てた白戸は舌打ちをし、勢いよく立ち上がると机の横のフックにかかっていた救急箱を手に教室を飛び出してゆく。
「……白戸君、そんなに甘いもの苦手なのかなぁ……?」
気迫負けして半泣きになる女子に、隣の友人がフォローを入れる。
「いや、違うでしょ。あれはいつもの『アレ』だって」
「『アレ』……?」
白戸は昼休みの生徒でごった返す廊下を大股で突っ切り、上履きを履き替えて中庭に出る。
「あ! 来た来た! 白戸ー! こっちこっちー!」
満面の笑みで手を振る赤城の指のテーピングは拠れて外れかかり、肘近くも新たに5cm程度の擦り傷ができている。
「あんったは何やってんですか!! あれほど安静にしとけって……!!」
「あはは。いやー、bet2倍って誘惑に負けてさぁ」
押し問答する二人の頭上の窓が開く。
「やまとー! やっとゲットできたわー! 降りんの面倒だから投げていー?」
「おっけ! 投げて投げてー!」
白いビニール袋が宙を舞い、赤城が上手にキャッチする。
「やまとナイスー!」
「ありがとなー、つっちー! 白戸! ほら、見て見て! 戦利品!」
ビニール袋の中には購買名物ティラミスパン。が、2個。
「いっつも世話になってんだろ? これめっちゃうまいから白戸にも食わせたくってさ」
ほめて! ほめて!
口に出さずとも感情が溢れる赤城の満面の笑みに戦意を削がれた白戸は小さくため息をつく。
「赤城先輩。先に手当をさせてください。傷口は洗いましたか?」
「おう! いつもお前に言われるから、とりあえず水洗いだけはしといた!」
「ああ、なるほど。肘までびっしょびしょなわけだ。待ってくださいね。ちょっと拭いてから……。あ、指の方のテーピングも直しますから」
「はーい」
赤城は中庭の庭石にちょこなんと腰掛け、擦りむいた肘の手当てを受ける。
「それにしてもよくこれだけ毎度ケガ増やしてきますよね」
「白戸にも見せたかったな。奇跡のスライディングレシーブ!」
「僕がその場にいたら、そもそも試合には参加させてませんから。そういえば大塚先輩は何やってたんですか? 赤城先輩が試合に参加するのを止めてくれたりはしなかったんですか?」
「大塚? つっちーに『ケガしても赤城係がいるから大丈夫』って言ってるのは聞いたけど」
「『赤城係』……」
「ちなみに大塚、昼休みになった途端に俺に『中庭で傷口だけ洗って待て』って言い残してどっか行ったぞ」
「僕に怒鳴られるの悟って逃げたんですよ。それに関しては次回詰めるんで大丈夫です。はい、終わりました」
「おう。いつもながら手際いいな。ありがとう」
「誰かさんのおかげで日々練習させられてるんで」
「あはは。ほら、こっち座って一緒に食べよ」
赤城はおいでおいでと自分の隣をぽんぽん叩く。白戸は赤城の隣に座り、救急箱を自身の膝に乗せた。
「白戸食ったことある? ティラミスパン」
「いいえ。購買のパン初めてです」
「あ、普段弁当なの?」
「はい」
「うちの購買結構斬新系メニューいっぱいあるからたまにはチャレンジしてみ? 普通のスーパーでは買えんレア物もあって面白いよ」
「そうなんですか? いただきます」
赤城から手渡されたパンを恐る恐る頬張ると、ココアパウダーがかかったコッペパンの中にしっかりと苦みの効いたコーヒーシロップとマスカルポーネチーズのクリームが挟み込んであり、少し洋酒の香りもする。素朴な見た目に反して本格派な味に白戸は目を丸くする。
「な? うまいだろ?」
「はい。見た目よりずっとおいしいです」
白戸は食べていたティラミスパンをじっと見つめる。
「……クルミ」
「あっ! いいなー! それ当たりなんだって。なんか材料費の関係で1日1個のティラミスパンにしか入ってないらしいぞ。お前運良いなー」
「へぇ。そうなんですか。先輩、良かったらクルミ食べませんか?」
「おいおい。せっかくの幸運を……。あ、もしかして白戸、クルミ苦手だった?」
「いえ? 2個入ってたんで1個は食べましたよ」
「そ? なら遠慮なくー」
赤城は雛鳥のように口を開ける。白戸は一瞬赤城とパンを交互に見つめ、パンの中に入っていたクルミをつまんで赤城の口に放り込んだ。
「うまー。ココア味と合うわー。幸運のお裾分けありがとなー」
「ナッツ類は爪の再生に良い栄養があるらしいですよ」
「ふぅん?」
赤城はコリコリとクルミを噛み、隣の白戸の横顔を見つめながら小首を傾げる
「白戸ってさ、いつもそんな栄養? とか考えながら飯食ってんの? うまいからーとかでなく?」
「確かに味も大事だとは思いますよ。でも、栄養が偏るから同じ食材ばかり摂取しないようにしよう、とか、あと1品葉物野菜付け加えたらバランス取れるかな、とかは考えますね」
「そんなの考えてたら飯の味わかんなくなんない?」
「むしろ味付けも同じ物ばかりにならないように、とは考えますけど」
「ああ。食べる人じゃなくて、作る人の立場で考えてるからかー」
「赤城先輩は常に食べる側の視点ですよね」
「あはは。確かにー。『美味い』は正義‼」
赤城の笑顔に白戸もつられて小さく笑う。
「そういうのっていいと思います。赤城先輩らしくて」
「白戸が言ってた作る人の考えってのもいいよな。そういう話聞くと、一生懸命作ってくれたんだから食べ残さないで食べようとか、味付け違うならいつも苦手な食べ物だけど今日は食べれるかもとか思うわ」
「へぇ」
「あと、なんか白戸の横にいるだけで栄養のご利益ありそう」
笑う赤城に白戸はぽつりと問いかけた。
「先輩。参考書買ってページ開かないまま頭が良くなったような気分になれちゃうタイプですか?」
「ぅえ⁉ なんでわかんの……⁉」
「実際食べないと栄養は取れません。爪の再生にはナッツ類とか全粒穀物みたいなビタミンB群と亜鉛、あと、ビタミンCも摂取してください」
「ビタミン軍団」
「具体的には肉魚、あと、果物野菜ですね」
「んんー……。覚えきれるかなー」
「好き嫌いせず、食材の種類をたくさんとれば適当にバランス取れますから」
「ああ、それならできるかも! 今から昼ご飯食いに行くからな」
「このパン、昼ご飯じゃなかったんですか?」
「食前パン。前菜みたいなやつ」
「その単語、初めて聞きました」
二人の会話に割って入るように通りかかった赤城のクラスメートが数人声をかけてくる。
「あっ! 赤城! 今からグラウンドで2組の小林達とサッカーやるって!」
「ほんとっ⁉ 行く行く‼」
「って、この子、例の『白戸くん』じゃない?」
「ああ、大塚が言ってた赤城係の」
全員の視線が白戸に注がれ、それから赤城の手の治療跡に移動する。
「……どうする? 赤城入んないと勝てるか微妙だよな」
「この前赤城がいない時、ぼろ負けしたもんな」
「どうやったら白戸くん説得できると思う?」
話し込むクラスメートをよそに、赤城は直接交渉に出た。
「なあ、白戸。サッカーだから、手は使わないよ。サッカー部の公式の試合とかじゃないからみんなスパイクとか履かないし」
「……」
白戸は無言で赤城の手の治療跡を見つめた。
「せっかく治療してくれたとこ、絶対汚さないようにするからさ」
「条件があります」
「はい」
白戸は赤城からつ、と視線を外すと、赤城のクラスメートに向き直った。
「すみません、先輩達の中で今スマホ持ってらっしゃる方は?」
赤城に声をかけてきたクラスメートは「俺持ってる」「俺も」と次々に手をあげた。
「連絡先を交換させてもらえませんか? で、赤城先輩がケガするようなことが起きた場合は僕にご連絡ください。それが条件です」
「ちょ……。白戸。ケガしたら自分で保健室くらい行くって」
「そう言って行かなかったことありましたよね。何度も」
「……そりゃ、そんなに大したケガじゃない時にはー」
「毎回赤城先輩のケガはまぁまぁ大したケガなんで。で、どうします?」
論破される赤城を目の当たりにしてクラスメートは感嘆の声をあげる。
「おお……。これが噂に聞く『赤城係』」
「俺らは赤城が参戦してくれるならいいよ。はい、これ俺のIDね。登録して。名前は『りんたろー』で」
「ありがとうございます。白戸です」
「俺も。赤城がケガしたらすぐ連絡入れっから。名前は『ナオヤ』な」
「はい。よろしくお願いします」
「ま、なるべく赤城にケガさせないよう気ぃつけるから。はい、『ちーちゃん』で登録して」
「お気遣い痛み入ります」
あっさりとID交換を終え、満足気な表情の白戸は丁寧に頭を下げた。
「おいしいパンごちそうさまでした。では赤城先輩。りんたろー先輩にナオヤ先輩、ちーちゃん先輩。いってらっしゃいませ。また後で」
「うん。……え? うん? 後で? って白戸、なんで……」
「はは。旦那見送る奥さんみたい」
「赤城信用されてねぇわ。絶対ケガすると思われてる」
「じゃあね、白戸くん。後でちゃんと赤城返すから」
こうして見送った20分後、白戸は外の水場の傍らで救急箱を持ったままスマホを片手に赤城達の帰還を待っていた。
「あっ! いたいた! 白戸くーん! お待たせー!」
「約束通り、赤城の返却ー」
砂まみれになったりんたろーとちーちゃんが手を振る。
「お疲れ様です。得点はどうなりました?」
赤城とナオヤが満面の笑みでそれぞれVサインを作って見せる。
「2-0で俺らの勝ち! 赤城1点入れたぞ!」
「大活躍でしたね。お帰りなさい」
「ただいま。白戸。約束通り、手のテーピングは死守した!」
そう言って赤城は擦り傷ができて赤くなった頬のまま、白戸に笑いかけた。
