よく晴れた日の夕方頃、私は白い花を持ってひとり川沿いの道を歩いていた。
しばらく歩いていると小柄な女性が座り込んでいるのを見つけた。
私は一旦足を止めて大きく息を吸い込む。

「里歩先輩」
声をかけると先輩が顔を上げてこちらを振り向いた。
そして前髪をかきあげてうっすら微笑む。
「美佳ちゃんも来てくれたんだ」

立ち上がった足元には黄色い花が添えられている。
私は近づいていき「はい。今日でちょうと一ヶ月なんですよね?」と、質問した。

「えぇ。今日はとてもいい天気だけれど、あの日はすごく荒れてた」
里歩先輩が空を見上げたので、私もつられて空を見つめる。
今日はとてもいい天気で、雲ひとつ見当たらない。

「花を手向けてもいいですか?」
「もちろん」
私はその場にしゃがみこんで黄色い花の横にそっと白い花を置いた。
この場所だけ華やかになってなんとなく喜んでくれているような気分になる。

そのまま視線だけ川へ向けると、透明感の強いおだやかな水が流れている。
普段は人を飲み込んだりするようには見えなくても、それは常におだやかなわけじゃない。
人の感情と同じか、それ以上に荒々しいものなのかもしれない。
「伊賀さんは里歩先輩を探しています」

突然の私の言葉に里歩先輩が驚いて目を丸くした。
「どういう意味?」
私は立ち上がり、先輩へ向き直る。

「私は伊賀さんの幽霊と波長が合ったようです。だから知っているんです、里歩先輩を探していることを」
その説明に里歩先輩は視線を泳がせ、だけど否定することなく私の話を聞いてくれたのだった。