ichiru_0402
すごく綺麗ですね、
いつも通る帰り道がこんなに綺麗なんて
uuuuuu_xxx
@ichiru_0402 嬉しいコメントありがとう。
けど消した方がいいかも、住んでる場所わかっちゃうよ。
ichiru_0402
@uuuuuu_xxx ごめんなさい。初めてコメントをしたので、そんなこと考えていませんでした。
ichiru_0402がコメントを削除しました。
これが、楸 都瑠との最初の会話。
篠山 悠太は動画を撮るのが好きだった。
電車の窓から流れる街並み、浜辺で波が寄せては返すその動き、蟻の行列をみつけてそれを追いかけたり。そんな物ばかりをスマホで撮影する。
あまり意味は考えず、編集ソフトで動画を繋げる。
それから彩度を低く、ノイズを加えて、明度もほんの少し下げて。心地よいクラシック音楽を添えて。
昨日見た悪夢みたいに、脈絡のない動画を作ってはSNSに投稿している。
鮮明に思い出せない記憶みたいな、そういう雰囲気が好きなだけで、どこかの芸術家を真似たつもりはない。
フォロワーは八千人弱。
海を越えた知らない国の誰かからハートマークが飛んでくる。
アートを気取った一本の動画は言葉を介さぬコミュニケーションとなり、自分の知らない場所で人気らしい。
一方で、同級生は誰一人悠太の趣味のことを知らない。
だから驚いた。
楸都瑠という人物からコメントが届いた時。
一つは、今どきフルネームでSNSを登録する人間がいることに。
ユーザー名の英数字の羅列だってそうだ。
【ichiru_0402】
下の名前と、おそらく誕生日だろう。
簡単に特定されてしまうその名前に危うさを感じる。
二つ目は、そのネットリテラシーの低さに。
フルネームのアカウントで住んでいる場所すら特定されうる内容を簡単にコメントするなんて。
そして最後に、我が校の生徒会長である楸都瑠が悠太の作る物を気に入ったという事実に、正直一番驚いた。
まるで住む世界の違う生徒会長様は、こんな意味のない悪夢を好み、それを綺麗と呼ぶのか。
暗い自室でベッドに寝転ぶ悠太は、自分のプロフィール画面を眺めた。
ポコン、と手の上で音がする。
ダイレクトメッセージの通知ランプが灯っていた。
ichiru_0402
どうしたら同じ景色が見えますか？
生徒会長様からのメッセージ。
篠山悠太は返信を書き込むことをしなかった。
意地悪がしたいのではない。
返信をしないと決め込んでいるわけでもない。
ただ質問の答えが見つけられなかったのだ。
