もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

────グチャッ!

潰れてしまったその綿毛は無惨な姿になり、俺が足を上げた瞬間その種子はブワッ!と空へと飛んでいく。

「あ~あ。なくなっちゃったね。」

クスッと笑って言ってやったら、源は泣き────ださずに、ニコッ!と笑った。
予想外の反応に驚く俺を他所に、源は飛んでいった綿毛の種子達を指差す。

「アレをとばしてあげたかったんだ。ありがとーごじゃーます。
とおくにとんで、きっとたのしいね。バイバーイ!」

それだけ言い残して源は、ゲンコツされて家に入ってしまった。

「……はっ??」

残された俺は肩透かしを喰らい、しばし放心した後は怒りが湧く。

思い通りにならなくてムカつく!

それが腹立たしくて、また違う日に公園で遊んでる源に声をかけた。

「ねぇ、何してんの?」

源は公園の砂場近くで粗悪な車のオモチャを使って遊んでいたが、俺の手にあるオモチャを見て目を輝かせる。

「しょっ、しょれは……ゲンテイモデルのビックカーこれくしょん!!」

「────ん、そう。他にも沢山あるよ。」

後ろに立っている護衛に命じて、他にも沢山持ってきたオモチャを出させると、源はパァァァ〜と更に目を輝かせた。

「しゅげぇ〜しゅげ~!!しゅごいのたくさん!!」

「────そう?でもこれ、普通だけど。
あ、ごめんね?お前みたいな貧乏で汚いヤツには普通じゃないかもね。かわいそ。」

フッと蔑む様にそう言ってやれば、源は泣きだす────ことはせず『へぇ~。』と納得した様に頷く。

「しょっか、しょっか~。『ふつう』っていっぱいありゅんだなぁ~。」

やはり思い通りの反応ではなかったので固まる俺に、何故か粗悪な車のオモチャを見せつけてきた。
そしてまるで見せびらかす様にフリフリと振る。

「実は、こりぇは、ちょっとふつうじゃない!ふぁみれすのガチャガチャであたったシークレットなのだ!おれ、うれちい!」

ワーイ!ととても嬉しそうな笑顔を見ると────もう何も言う気になれなかった。
こいつにとっては、特別も普通もあんまり関係ないんだ。

「…………。」

なんだか急に自分の持っているもの全てがどうでも良くなって、それがとても不思議で首を傾げる。
するとその直後、顔を真っ赤にした母親がやってきて、また源にゲンコツして連れていったが、俺の視線はそのまま源を追いかけていた。


「───幼稚園変える。」

その日帰って直ぐに父親にテレビ電話をかけてそう伝えると、父親は少し驚いた様だ。

《気に入らない先生や友達でもいたのか?》

的外れな答えに首を振り、ニコッと笑う。

「気になるモノがあるから近くで見たい。いいでしょ?」

《……はぁ??》

父は素っ頓狂な返事を返してきたが、俺が引くつもりがない事を察し、ハァ……とため息をついた。

《気まぐれな奴め……そういう所は母親似だな。────まぁ、どうせすぐ飽きるだろう?
その足元に転がっているおもちゃと同じように。》

画面の向こうの父は、俺の足元を指差しクスクスと笑う。
足元には、先程源に見せびらかすためだけに買ったオモチャが残骸になって散らばっていた。

だって要らなかったから。

「────さぁ。どうかな?」

《……まぁ、いいさ。好きにすればいい。》

父との会話はそれで終了。
次の日から、俺は源と同じ幼稚園に通うことになった。

源は全てにおいて普通で、その普通は俺に執着を生む。

源の目に映る俺は、他のみんなが移す俺とは違って普通になってしまった。
だからなんとかその中の特別になりたくて、俺は源のモノは全て奪ってやる。

「ねぇ、その鉛筆ちょうだい。」

「ねぇ、そのハンカチちょうだい。」

「ねぇねぇねぇねぇ────。」

くっついて回る俺に、大抵源はいいよと言って全てを差し出してくれた。
それにゾクゾクする。

俺は源に許されている。
だから俺の全てを受け入れてくれる源は俺のモノ!

まぁ、たまに嫌だと言われてそっぽを向かれることもあったが、その時は全ての力を使って源から奪ってやった。

「か、翔なんて嫌いだ!あっちいけ!」

「ふーん?なんで?ねぇ何で嫌いなの?俺のどこが嫌いなの?ねぇ、ねぇ、ねぇ。」

そうグイグイと問い詰めてやれば、源は必死に俺の嫌な所を考える。

「え、えーと……??────んん~??な、なんでもできる所……??」

「できないよりできた方がいいんじゃない?はい、問題は解決したね。」

「えっ??……あー……。う、うん……。」

頭が弱くてすぐ流される源。
それが可愛くて可愛くて仕方がない!

結局飽きるどころか、執着はどんどん強まるばかりだ。

「とうとう性欲まで源に向いちゃったんだ。……いや、これはもしかしてずっと前からかもね。」

高校の時に奪ってやった源の彼女。
手を繋いだ時、凄く興奮したのだが────それ以上手指は動かなかった。

「確か、源が一度だけ繋いだ手だって思ったら興奮したんだよね。それに、今思えば俺が今まで呼んでた女って……。」

目が少し似てる。
口元が似てる。
髪の色が、指の形が、耳が────……。

「あ、似てたから興奮してただけか……。」

今まで見えなかった視界が一気に開けて、俺はそのまま腹を抱えて笑ってしまった。
そして今まで持っていた好きが一気に弾けて、俺の人生はキラキラと輝き出す。

俺の普通じゃない人生は、源によって普通にも普通じゃないモノにも簡単に変化して、人生を輝かせてくれるのだ。
それってすごく幸せな人生じゃない?

「そっか……俺の人生って、源が一人いるだけで足りちゃうんだ。
んん~……じゃあ、逆に源がいなくなったら俺の人生って終わっちゃうから、大事に大事にしないと……。大事に……大事に……。」

ブツブツと呟きながら、源の事を思い浮かべると、あっという間に下半身が元気を取り戻してしまい苦笑い。
呆れてため息が漏れてしまったが、どうにもできずに……その日は好きなだけ頭の中の源とセックスをして過ごした。