もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

現在俺と翔は大学生。
入学と同時に、いわゆるルームシェアってヤツしているのだが……なんと料理、洗濯、掃除などの家事全部を翔が担当している。
勿論一緒に住み始めた初日に家事の担当を決めようと言ったのだが、それに対して翔は首を横に振った。

『源はいいよ、何もしなくて。』

そう言った翔はとても嬉しそうで……それにわずかに違和感を感じた。

『いや、それは良くないだろう。ちゃんと分担決めてしようぜ。まずは────……。』

流石にそんなおんぶにだっこな生活は嫌だと思い、違和感を一旦隅に追いやって提案をしようとしたのだが────翔は俺の口を突然塞ぐ。

『いいから。────ね?大丈夫。源は何も考えずにここにいればいいんだよ。』

結局三年間、俺は家事を一度もやってない。


「…………?」

あの時感じた違和感が突然顔を覗かせ、なんだか背筋がヒヤッと冷えた気がした。

……あれ?なんか……俺達って変じゃないか……?

蝶野さんから言われた言葉を繰り返し繰り返し頭の中で呟いていると、忘れていた昔の思い出が次々と蘇っていった。

『源、ねぇどこに行くの?』

『ねぇ、その名前入りの鉛筆ちょうだい。』

『ねぇねぇ、その洋服ほしいな、ちょうだい?』


『ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ────……。』


出会って間もない頃から、翔はどこに行くにもついてくるし、俺が行かないなら行かない。
それに俺のモノは何でも欲しがった。
割と物事には大雑把な性格の俺は、それを全て些細な事だと思い、別にいいかと思いホイホイ一緒に行ったり欲しがるモノをあげていたのだが……今にして思えばそれが良くなかったのかもしれない。
その行動はエスカレートしていき、小学校である事件が起きた。

俺が自分の持っていた消しゴムを他の友達にあげた時、突然翔がそれをその友達から取り上げ、放り投げたのだ。

『あっ!何すんだよ!』

当然怒ったが、それ以上に翔の怒りは凄まじかった。

『なんで俺以外にあげるんだよ!!』

『なんでなんでなんでなんでっ!!!』

────ガンッ!
机を蹴って怒りを顕にする翔に誰もが驚き、それから翔以外にどんな些細なモノもあげた事はない。
それほどに凄い怒りっぷりだったから。

「……そんなに欲しかったのかな。あんな使いかけの消しゴム……。」

確かその時にあげたのは、捨てる寸前の消しゴムだった。
その子がたまたま消しゴムを家に忘れ、困っていたから『いらないヤツをあげるよ!』程度のモノだったのに……。

その時の事を思い出すと今でも震えてしまい、両腕をシャカシャカ擦る。

その後、翔は俺のモノを奪い続け……とうとう中学生の頃は初恋であった同級生を、そして高校生では初めてお付き合いした彼女もあっという間に奪っていった。

『ごめんね……やっぱり私、空野君と付き合う事にしたから……。』

付き合ってすぐの彼女に突然振られ、ズズーン!と落ち込みしばらくは立ち直れなかった。
それなのに元凶とも言える翔は平然と俺の側に毎日いるという……一体何の罰ゲームだろう?という状況の中、毎日を過ごす。

『今度から、大事なモノや知られたくない事は全部隠して生きていこう。』

ある日フッと我に帰った瞬間、そう決意したのだが……翔は事あるごとに俺の隠し事を暴いては邪魔をしてきた。

『今度合コンみたいな集まりを友達とするんだって?俺も行く事になったから。』

『友達と買い物行くんでしょ?俺も行くから。』

そうして俺が行く先々についてきては、その集まりの中心になる翔。
誰もがそのカリスマ性に夢中になって、俺は毎回ポツン……とボッチになってしまう。
まぁ、それはそれで自分の魅力不足という事で仕方がないが……厄介なのは、翔が必ず直接的ではなくさり気ない形で俺を孤立させるような事を皆に言う事だ。

「源と遊びに行くときは、全部俺が調べて予約をするんだ。源って結構こだわりがあるから。」

「源はすごく優しくて、いつも友達との集まりに誘ってくれるんだけど……本当に俺が来ても良かったのかな?いつも突然だから少し気になって……。」

つまり俺は翔に面倒な事を押し付け、更に翔の予定も聞かずに強引に連れてきたと……。

確かに気がつけば下調べも予約も完璧に揃えてくれるが、行きたいなんて言ってないし、毎度強制イベントとして連れてかれる。

それに集まりに勝手についてくるのは翔の方!

そう訴えても、誰も信じてくれず「お前、結構嫌なヤツだな。」「空野にあんまりおんぶに抱っこすぎると恥ずかしいぞ。」などと散々なセリフを残しては去っていった。

「────あれ……??……んんん~???」

スタスタと歩きながら、どんどんと頭が冴えていき……モヤモヤする原因とも言える答えに辿り着く。

俺、めちゃくちゃ翔に陥れられてない??

今更ながらそれに気づくと、足をピタリと止め、完全に覚醒した頭で一つの言葉が思い浮かんだ。

《フレエネミー》

一昔前に流行ったそんな言葉がグルグルと頭の中を巡り、その場に崩れそうになってしまう。

「おいおい。しっかりしろよ、俺ぇ~……。俺ってば、めちゃくちゃ翔に嫌われてるじゃんか……。────あ~……!!もう、全部や~めたっ!」

空に向かって叫ぶと、今までされてきた酷い扱いの数々を思い出してワー!と悲鳴の様なモノを上げた。

もうルームシェアなんて止める!
そんでもって翔とは必要最低限の付き合いにしてやるんだ!

そんな決意を固めた俺は、翔と一緒に住んでいるアパートへ進んでいた足を動かし、回れ~右!しようと振り返ると────……。


「源、一緒に帰ろう。 」


すぐ後ろに、この世のものとは思えない程美しい顔で微笑む男がいた。