「 へぇ~……そうなんだ~。

じゃあ、そのスーツとか……もしかして借金でもしちゃったとか……?

……うわ~引く。 」


最後はボソッと小さな声で呟いたので、多分俺にしか聞こえてない。

蝶野さんの態度はあからさまに悪いモノになっていたので、そのまま話を切り上げた方がいいと思ったが……借金はしてないのでそこだけはしっかりと否定しておく。


「 いや、借金はしてないよ。

これは全部貰ったモノで……。 」


正直にそう話すと、蝶野さんは「 ────は? 」とあからさまに不快全開な顔で俺を睨みつけた。

そしてあからさまに蔑む様な目をして、ハァ……とため息をつく。


「 ……根本君って学生の頃と全然変わってないんだね。

外見も性格も。

お金持ちの人に擦り寄って、まだそうやって恵んでもらっているんだ。

自分で頑張ろうとか、そういう気持ちはないんだね。そういうのは良くないと思う。 」


「 そんな事は────……。 」


” ない ” と言いたかったが……あながち今の状況はそういう見え方もするかもと思うと、口から上手く言葉が出なかった。

そんな俺に向かい蝶野さんはハァ……ともう一度ため息をつき、悲しげに目を伏せる。


「 根本君って当時私の悪口を散々言って周りの人達を遠ざけようとしたよね……。

正直すっごく傷ついたし、悲しかった。

それでずっと悩んでいたけど……そんな嘘までついたのは、そうやって自分の強請ったモノを買ってくれる人達を独占したかったからだったんだね。

それって人として最低だよ……。 」


「 えっ??わ、悪口?? 」


一言も言ってない!と反論しようとしたが、蝶野さんのウルウルと水が張ってくる目を見た男性社員達が飛んできて、口々に俺を責めてきた。


「 根本!お前一体何したんだよ! 」


「 そうっすよ!蝶野さんをここまで泣かせるなんて……絶対ヤバい事したんじゃないんすか?! 」


こうガミガミと一方的に責められては、流石に口を挟めず……しかし、女子社員からは反撃の言葉が撃たれる。


「 どっかの仕事押し付けて帰っちゃう様なクソ女より、よっぽど頑張ってると思うけどね~。根本君の方が。 」


「 そうだよね~。お金持っている男にすり寄って恵んでもらうとか最低だわ~。

あれれ~?自分の事って意外に分からないんだね~。 」


「 嘘つくのってチヤホヤしてくれて、自分の強請ったモノを買ってくれる人達を独占したいからなんだ。

へぇ~?ほ~?酷~い。最低~。 」


嫌味たっぷりで言い返す女子社員に多少男性社員は狼狽えた様だが、モテない女達の嫌がらせととった様だ。


「 蝶野さんが可愛いからって僻むなよな。 」

「 女のヒス怖っ! 」


失礼極まりない言葉を女子社員達にぶつけ、最後は鼻で笑いながらシクシク泣き出した蝶野さんを連れて部内を出ていった。


「 ~っむっかつく~!ホントなんなの?

あのクソ女とクソ取り巻き共っ!! 」


和恵が一番キーキーと怒っていたが、俺はなんとも言えない気持ちで塞ぎ込む。

確かに蝶野さんに言われる筋合いはないかもしれないが、確かに今の俺は……?


「 …………。 」


ズーン……と凹んでいる所にアズマがポンッと肩を叩いてくる。


「 いや~……ま、蝶野さんホルモンのバランスがアレだったのかもしれないな!

女って月に一度そうなるから気にすんの止めようぜ! 」


多分俺を慰めようと言ってくれたのだろうが、女子社員が「 セクハラだ! 」一斉に怒り出し、そのまま昼休みの間中、アズマは説教されていた。



そのままボンヤリしながらもしっかり仕事をこなしてトボトボ帰ろうとすると、直ぐに近づいてきた車から翔が顔を出す。


「  源、お疲れ様。

さ、帰ろう。 」


その場に車を止め、俺を助手席に乗せるとそのまま発進してあっという間に家へ。

そしてまた部屋の中に入ると新たなプレゼントの箱があって、翔はルンルンと鼻歌を歌いながらその箱を開けていった。


「 う~ん……また新しいスーツを作らせたんだけど、生地を変えてみればよかったかな~?

それにボタンも形違いのが欲しいな。

あ~あと、ネクタイも追加で20本買ったんだけど、源はどれが一番好き?

あとは靴下と~部屋着もそろそろ寒くなってきたから新しい────……。 」


「 か、翔……! 」


俺は意を決して翔の名前を言うと、バックの中から腕時計を取り出し翔に差し出す。


「 これ、すごく高いヤツなんだろ?

流石に貰えないから返す。

それにやっぱり私物は自分の金で買うよ。 」


ハンカチを丁寧に開けて翔に時計を見せると、翔はう~ん?と首を傾げてその時計を手に取り────……。


────ポイッ!


なんとゴミ箱の方へ放り投げたのだ!


「 うわぁぁぁぁぁ!!! 」


俺は猛ダッシュでその放り投げられた時計に飛びつき、しっかりキャッチ!

そのまま床をゴロゴロと転がって真っ青になりながら翔を見つめたが……なんと翔は腹を抱えて笑っていた。


「 ……何? 」


大爆笑している意味が分からず無感情な目で睨むと、翔はヒーヒー笑いながら俺を指差す。


「 だって源ってば、そんなモノを必死に守っちゃってさ!

凄い面白い動きしてた!

それが見れたから買って良かったな~。 」


アハハ!と笑う翔に俺は青ざめた。


いや、家が買えるくらいの時計をそんなモノって……!


ブルブルと震えながら時計を避難させるため近くのテーブルの引き出しに優しく入れると、翔が直ぐに俺に近寄りチュッチュッとキスをしてきた。