もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

( 翔サイド )

まさに脱兎の如く部屋を出て行ってしまった源。

直ぐに捕まえようとした所で自分の体の変化に気づき、動きを止めた。


「 ……あ~。

────マジ……? 」


その変化が現れた場所を見下ろし頭を抱えると、落ち着くために一度ベッドの上に座り込む。

そして直ぐにスマホで電話を掛けた。


《 はい、もしもし。 》


「 源、今どこにいる? 」


電話の相手は常に源の側に控えさせている護衛で、そいつは淡々と質問に答える。


《 現在全速力で走っていらっしゃいますので、こちらも全員で跡を追っています。

この方角なら行き先はご実家である可能性が高いです。 》


「 ……そう。

じゃあ、そのまま見張りを続けて。

それと、直ぐに今流行りのお菓子を用意してくれる? 」


《 承知いたしました。 》


────プツッ!と通話を切った後、俺は携帯を投げ捨て自身の下半身を見下ろした。


「 ……こんなに興奮したの初めてだな。

う~ん……。どうしようかな?

女でも呼ぼうかな……。 」


” 遊ぶ時はコレを使え。 ”

高校を卒業後、父にそう言われて渡されたのは、性を売りにしている高級プライベート・クラブの会員証だ。

ここはいわゆる、富裕層向けに作られた会員制のクラブで、セックス接待を提供してくれる場所。

徹底した情報管理をしてくれるため、今まで何度も利用してきた。


「 …………。 」


投げ捨てたスマホを取りに行こうとしたが、なんだか面倒で……。

もういいやと、自分の下半身をマジマジと見下ろし観察してみた。


「 ……すご。こんなになったの始めてかも…………。 」


急激な変化をしてしまったソレに少しだけ恐怖を感じたが、直ぐに ” 気持ちいい ” に思考は溶かされる。

頭に浮かぶのは、今まで抱いてきた女の体────じゃなくて、さっき見た源の身体で、それにありえない程興奮した。


「 ……はっ……は、はははっ……。

……っすっごい……なっ……。

あ~……源の身体を触ったら……俺、どうなるのかな……? 」


頭の中に、突然現れた生まれたままの姿の源。

優しく全身を触ってあげると、妄想の中の源はすごく気持ちよさそうな顔をしていて……俺にすがりつく様に抱きついてきた。

源の顔。

源の胸、背中、お腹、手、足……視覚に入る全てが興奮を手助けしてくれて。

耳に入る声も息遣いも、感じる体温だってそう。

五感全てが奪われる様な感覚になった。


「 ……はっ……はっ……っ……源、源、源、源……。 」


源の名前を囁きながら、気がつけば自分の快感を引きずり出そうと勝手に手が動き………。


” 翔……。 ”


「 ────~……っ……っっ……っ!!?? 」


妄想の中の源が俺の名を口にした瞬間、凄まじい快感が体を襲い視界は真っ白に。

肩を大きく揺らしながら荒々しく息を吐く。


「 ────ハァ……ハァ……。……??

…………?? 」


荒い息を吐きながら、初めて味わう衝撃にしばらくボンヤリとしたまま動けなかった。


何だコレ?

何だコレ??

何だコレ???


強すぎる快感と、ぐちゃぐちゃに濡れてしまった下半身に驚きながら、俺の脳裏には源と初めて出会った頃の事が浮かんでいた。



源は本当に普通。

最初に会った時だって特に印象に残る事はなく、沢山いる誰かの内の一人程度だった。

物心ついた頃から、自分は普通じゃない特別な存在である事は分かっていて、他人に対しては ” なんでできないの? ” くらいしか思った事がない。

勿論家の近所でたまに見かける源に対しても最初はそう思ったし……いや、むしろ不快感すらあった。

俺の家は広い豪邸で、源の家は犬小屋みたいな狭い家。

俺がエスカレーター式の富裕層向け幼稚園で、源はそこら辺の普通の幼稚園。

俺が毎朝車で幼稚園に行く時、源は母親が運転する自転車の前にちょこんと乗って通園していた。


バカみたい。


自転車の前に置物の様に乗せられている源は、いつもすごくはしゃいでいて、手を水平にして飛行機ごっこの様なものをしている。

ただ自転車に乗せられて手を広げただけ。

それで幸せになれる源が、心底気持ち悪いと思った。


だから少しだけ気まぐれを起こしたのだ。


ほら、気持ち悪い毛虫とかが目の前でゴソゴソ動いていたら……潰したくなるじゃない?


────プチってさ。



「 ねぇ、何やってんの? 」


車から出た時、俺はちょうど母親と家に入ろうとしている源に話しかける。

母親の方はビックリしたみたいだか、源は何でもないかの様にすぐ近くに咲いていたタンポポの綿毛を指差した。


「 しょれ……吹きたい。 」


舌っ足らずのアホみたいな言い方。

それでも一生懸命母親を引っ張りながらタンポポの綿毛を指して訴えてくる。


どうやら母親が早く帰りたいからと源を無理やり引っ張って家に入れようとしていたみたいだ。

源はひたすら踏ん張ってそのタンポポの綿毛に手を伸ばしている。


「 ……ふ~ん。 」


俺はつまんなそうにそう答えると、そのまま足を上げてその綿毛を踏み潰した。
────グチャッ!


潰れてしまったその綿毛は無惨な姿になり、俺が足を上げた瞬間その種子はブワッ!と空へと飛んでいく。


「 あ~あ。なくなっちゃったね。 」


クスッと笑って言ってやったら、源は泣き────ださずに、ニコッ!と笑った。

予想外の反応に驚く俺を他所に、源は飛んでいった綿毛の種子達を指差す。


「 アレをとばしてあげたかったんだ。

ありがとーごじゃーます。

とおくにとんで、きっとたのしいね。

バイバーイ! 」


それだけ言い残して源は、ゲンコツされて家に入ってしまった。


「 ……はっ?? 」


残された俺は肩透かしを喰らい、しばし放心した後は怒りが湧く。


思い通りにならなくてムカつく!


それが腹立たしくて、また違う日に公園で遊んでる源に声をかけた。


「 ねぇ、何してんの? 」


源は公園の砂場近くで粗悪な車のオモチャを使って遊んでいたが、俺の手にあるオモチャを見て目を輝かせる。


「 しょっ、しょれは……ゲンテイモデルのビックカーこれくしょん!! 」


「 ────ん、そう。他にも沢山あるよ。 」


後ろに立っている護衛に命じて、他にも沢山持ってきたオモチャを出させると、源はパァァァ~と更に目を輝かせた。


「 しゅげぇ~しゅげ~!!

しゅごいのたくさん!! 」


「 ────そう?

でもこれ、普通だけど。

あ、ごめんね?お前みたいな貧乏で汚いヤツには普通じゃないかもね。

かわいそ。 」


フッと蔑む様にそう言ってやれば、源は泣きだす────ことはせず、へぇ~と納得した様に頷く。


「 しょっか、しょっか~。

" ふつう " っていっぱいありゅんだなぁ~。 」


やはり思い通りの反応ではなかったので固まる俺に、何故か粗悪な車のオモチャを見せつけてきた。

そしてまるで見せびらかす様にフリフリと振る。


「 実は、こりぇは、ちょっとふつうじゃない!

ふぁみれすのガチャガチャであたったシークレットなのだ!

おれ、うれちい! 」


ワーイ!ととても嬉しそうな笑顔を見ると────もう何も言う気になれなかった。

こいつにとっては、特別も普通もあんまり関係ないんだ。


「 …………。 」


なんだか急に自分の持っているもの全てがどうでも良くなって、それがとても不思議で首を傾げる。

するとその直後、顔を真っ赤にした母親がやってきて、また源にゲンコツして連れていったが、俺の視線はそのまま源を追いかけていた。



「 幼稚園変える。 」


その日帰って直ぐに父親にテレビ電話をかけてそう伝えると、父親は少し驚いた様だ。


《 気に入らない先生や友達でもいたのか? 》


的外れな答えに首を振り、ニコッと笑う。


「 気になるモノがあるから近くで見たい。

いいでしょ? 」


《 ……はぁ?? 》


父は素っ頓狂な返事を返してきたが、俺が引くつもりがない事を察し、ハァ……とため息をついた。


《 気まぐれな奴め……そういう所は母親似だな。

────まぁ、どうせすぐ飽きるだろう?

その足元に転がっているおもちゃと同じように。 》


画面の向こうの父は、俺の足元を指差しクスクスと笑う。

足元には、先程源に見せびらかすためだけに買ったオモチャが残骸になって散らばっていた。


だって要らなかったから。


「 ────さぁ。どうかな? 」


《 ……まぁ、いいさ。

好きにすればいい。 》


父との会話はそれで終了。

次の日から、俺は源と同じ幼稚園に通うことになった。


源は全てにおいて普通で、その普通は俺に執着を生む。

源の目に映る俺は、他のみんなが移す俺とは違って普通になってしまった。

だからなんとかその中の特別になりたくて、俺は源のモノは全て奪ってやる。


「 ねぇ、その鉛筆ちょうだい。 」


「 ねぇ、そのハンカチちょうだい。 」


「 ねぇねぇねぇねぇ────。 」


くっついて回る俺に、大抵源はいいよと言って全てを差し出してくれた。

それにゾクゾクする。


俺は源に許されている。

だから俺の全てを受け入れてくれる源は俺のモノ!


まぁ、たまに嫌だと言われてそっぽを向かれることもあったが、その時は全ての力を使って源から奪ってやった。


「 か、翔なんて嫌いだ! 

あっちいけ! 」


「 ふーん?

なんで?ねぇ何で嫌いなの?

俺のどこが嫌いなの?ねぇ、ねぇ、ねぇ。 」


そうグイグイと問い詰めてやれば、源は必死に俺の嫌な所を考える。


「 え、えーと……??

────んん~??な、なんでもできる所……?? 」


「 できないよりできた方がいいんじゃない?

はい、問題は解決したね。 」


「 えっ??……あー……。

う、うん……。 」


頭が弱くてすぐ流される源。

それが可愛くて可愛くて仕方がない!


結局飽きるどころか、執着はどんどん強まるばかりだ。


「 とうとう性欲まで源に向いちゃったんだ。

……いや、これはもしかしてずっと前からかもね。 」


高校の時に奪ってやった源の彼女。

手を繋いだ時、凄く興奮したのだが────それ以上手指は動かなかった。


「 確か、源が一度だけ繋いだ手だって思ったら興奮したんだよね。

それに、今思えば俺が今まで呼んでた女って……。 」


目が少し似てる。

口元が似てる。


髪の色が、指の形が、耳が────……。


「 あ、似てたから興奮してただけか……。 」


今まで見えなかった視界が一気に開けて、俺はそのまま腹を抱えて笑ってしまった。

そして今まで持っていた好きが一気に弾けて、俺の人生はキラキラと輝き出す。

俺の普通じゃない人生は、源によって普通にも普通じゃないモノにも簡単に変化して、人生を輝かせてくれるのだ。

それってすごく幸せな人生じゃない?


「 そっか……俺の人生って、源が一人いるだけで足りちゃうんだ。

んん~……じゃあ、逆に源がいなくなったら俺の人生って終わっちゃうから、大事に大事にしないと……。

大事に……大事に……。 」


ブツブツと呟きながら、源の事を思い浮かべると、あっという間に下半身が元気を取り戻してしまい苦笑い。

呆れてため息が漏れてしまったが、どうにもできずに……その日は好きなだけ頭の中の源とセックスをして過ごした。


「 はい、あ~ん。 」


「 …………。 」


目の前には霜降り最高ランクの肉が。

でもそれと同時に翔の笑顔も見える。


先程翔のお陰で入れた超高級肉料理店は、その内装も物凄くて……巨大ビルの最上階にあるその店は、全ての窓が薄いガラスの水槽になっていた。

そこを泳ぐ魚がまるで空を飛んでいる様。

まさに海の底にいる様な体験ができるその店は、ちょっとした水族館と言っても違和感はない。

そんな店内に置いてある白いテーブルクロスが眩しいテーブルと二脚の椅子も、シンプルながら職人の腕が光る匠のモノ。

素人の俺でも分かる繊細で素材にもデザインにも凝った作りをしていたので、絶対に傷をつけるものかと、店に入って直ぐに誓った。

そうして漫画に出てくる執事の様な格好をした男の人に誘われ、席に誘導されたのだが……用意されている席を見て目が点になる。


「 ……なんか椅子の位置変じゃね? 」


「 そう?

あぁ、日本だと一般的じゃないかもね。 」


大体レストランとかに行って二人で食べる際、大抵椅子は向かい合わせに置かれるはずなのだが────……目の前の椅子はどう見てもおかしい距離で隣同士に並んでいる。


「 へぇ~海外ってこんな感じなんだ……。

……食べにくくね? 」


お互い食べていると肘がぶつかる……いや、絡まり合うくらいの距離。

それに納得いかずに考え込むと、翔はニコニコと笑顔で返事を返し、俺を引きづって椅子の一つへ強制おすわりさせた。


「 ────おい……。 」


「 じゃあ、乾杯しようか。

まずはシャンパンから。源好きだもんね。 」


翔がそう言った瞬間、直ぐにスタッフらしき人が来てグラスにシャンパンを注ぐ。

キラキラと薄い黄色がかった液体とシュワッという炭酸の弾ける音に、一旦口を閉じて凝視した。


「 うん、シャンパンってうまいよな。

特別な日って感じがするから普段は飲まないし。 」


「 そうだね。

源にはこれから少しづつ頑張ってもらわないといけないから、ちょうど良かった。 」


頑張る……?

何を……??


そんな疑問を持ったのは一瞬で、直ぐに答えが出た俺はしっかり答える。


「 ────あぁ、そういう事か。

まぁ、完璧は難しいが頑張るよ。 」


頑張るとは恐らく今まで全部翔がやっていた家事の事。

普通のルームシェアなら家事は半々が当たり前だし、そもそも家賃だって払ってないんだから俺が全部やっても文句はないくらいだ。

任せろと言わんばかりに胸を叩くと、翔は嬉しそうに笑う。

なんだかその笑顔に違和感があったため、どうしたのか尋ねてみようと思ったが、その直後にきた肉料理に意識が向き口を閉じた。


薄い肉がサラダを包みこむ恐らく前菜的な料理。

その姿はまるでイソギンチャクの様で、それ単体で美術館などに飾られている作品のようだ。


「 す、すげぇ~……! 」


目を輝かせ、早速……!と食べようとすると、翔がサイドに置いてあるフォークを取り上げる。


「 …………? 」


嫌がらせ??

ムッとしながら、翔の方に置いてあるフォークを取ろうとしたが、その手はペシッとはたき落とされた。


「 ……何? 」


「 はい、あ~ん。 」


翔は睨みつける俺を無視して、肉サラダにフォークをぶっ刺し、そのまま俺に差し出してくる。

あれ?普通の距離とは……??

外ではされたことがないこの行動に汗を掻き、俺は翔に尋ねた。


「 ……俺達の関係は変わるんだよな? 」


「 うん。そうだね。

だから、あ~ん。 」


話が通じない翔にため息をつき、俺は首を振って拒否を示す。


「 いやだよ。俺は自分で食べる。 」


すると翔はニコッと笑いながらフォークを地面に落とした。


「 ────あっ! 」


驚いてそれを拾おうとしたが、二の腕を掴まれて覗き込む様に見つめられる。


「 ね、お願い。 」


「 …………。 」


基本、翔のお願いはほとんど命令だ。

それをどんなに拒否しても、言うこと聞くまでしつこいし、周りもそうするべきだと攻撃してくる。

勿論、本気で嫌がれば譲歩はしてくれるのだが、それには非常に強いパワーが必要となる。

だからいつも俺は天秤に掛けるのだ。

" 言う事を聞く " と " 抵抗する手間 " を。


「 ……分かった。 」


コクリっと頷くと、翔はパァ~!と嬉しそうにしながら、また新しいフォークで肉を刺して俺に差し出す。

これくらいなら言うことをきいた方が楽。

そう判断し、俺は大人しく口を開け、まるで雛の様に食べる事にした。


「 うん。源はいい子だね。

何がいいか言ってくれれば食べさせてあげるよ。 」


「 ……どうも。 」


なんか変。

違和感を感じながらも結局そのまま完食させられ、まるでエスコートされる様に店を出た。
「 …………。 」


その後車の中で無言を貫いていたが、翔は今まで見た事がないくらいご機嫌で……違和感は更に強くなっていく。

信号で止まるたびに髪や顔を触ってくるし、やっぱりおかしいと流石に分かった。


……今日も実家に帰ろう。


気味が悪い翔と少し距離を置きたくて、俺がそれを口に出そうとすれば、窓の外の景色が帰り道のモノとは違う事に気づく。


「 ??あれ?

翔、どこ向かってんだよ。 」


窓の外を指差し尋ねると、翔はニコニコしながら答えた。


「 買い物だよ。

全部買い揃えようかなって思って。 」


「 はぁ?? 」


いや、何を?────と尋ねるのはやめておく。


翔は結構散財屋の様で、気がつけば毎日違うモノを身につけているからだ。

そこまで細かくは見てないが、スーツとかネクタイとか?頻繁に違うモノを持っている気がする……。


まぁ、なんか欲しいモノでもあるんだろう。

そう軽く考えて────めちゃくちゃ後悔した。



「 ────うん。これがいい。

じゃあ、これとこれとこれ。あとそっちのもね。

全部包んでくれる? 」


翔は値段が書かれていない商品を次々と俺に着させ、片っ端からそれを買っていく。

驚いて直ぐ商品を丁寧に包もうとしている店員さんを止めようとしたが、そんな俺を翔が止めた。


「 大丈夫だよ。全部すごく似合ってたから。 」


「 いやいや……そういう問題じゃねぇよ。 」


まるで高級ホテルの様な内装で、天井にはシャンデリア。

もうこの時点で別世界だというのに、そんな場所に置いてある商品などとんでもない値段に違いない。

そんなモノを山盛り購入。

高級そうな箱に詰められ、テーブルの上に積まれていく商品達は見上げる程だ。


総額がいくらなのか想像もつかない。

恐怖にブルっ!と震える俺とは違い、翔はとても不思議そうな顔をしていた。


「 ?もしかしてデザインが嫌い? 」


「 そうじゃねぇよ。

俺はこんなの買うお金なんてねぇぞ。

だから悪いが全部キャンセルで。 」


ビシッ!と当たり前の事を言ったのに、翔はコロコロと楽しそうに笑い、動きを止めた店員に動いて良しと言わんばかりに手を振る。


「 そんなことか。

なら大丈夫だよ、全部俺のお金だし。 」


「 はぁぁ────!? 」


全然大丈夫じゃない!

慌てて俺は翔に詰め寄った。


「 いや、おかしいおかし過ぎるだろう!?

なんで翔の金で俺のモノを買うんだよ! 」


今までもちょこちょこと色んなものを渡してはきたが、こんなあからさまな感じではなかった。

正直こんなことされても困るので、何か原因があるならやめて欲しいとおもったのだが────やはり翔は不思議そうにするだけだ。


「 ?おかしいかな?

でも、ここで買わないと家に源のモノは何もないよ。

さっき頼んで全部捨てたからさ、源の服や日常品、パンツとかも全部。 」


「 はぁぁぁぁぁ────??!」


更に衝撃的な事を言われて、真っ青になりながら冷静に質問した。


「 ……なっ、なんで俺のモノをすてたのかな~? 」


「 アッハッ!源、今さ~動揺してるでしょ?

動揺すると子供に話しかける口調になるよね。 」


「 …………。 」


笑う翔はすごく楽しそう。

でもやっている事はめちゃくちゃ嫌がらせだ。

ス────~……ハァ~……。

大きく深呼吸をしてから、笑う翔にまた冷静に話しかけた。


「 ……どうしてそんな酷い事をしたんだ。

イタズラにしてはタチが悪過ぎるし、お前なんだかおかしいぞ。 」


「 酷い?なんで?

だってこれからは俺が選んで買ったものだけだよ、源の身につけられるモノは。 」


「 ???? 」


全く会話にならない事に流石に焦ったが、とにかく誕生日でもないのに……いや、誕生日だとしても過剰過ぎる。

完全にお断りしようと口を開けようとしたが、翔は優しい手つきで俺の口を塞いだ。


「 ────っむぐっ!! 」


「 ん~……。俺、この匂い好きじゃないんだよね。

新しく調合させたシャンプーとボディーソープは必須だな。 」


突然口を押さえてない方の手で俺の体を抱き寄せ、耳元の臭いを嗅いでくる。


「 ────~っ!!?? 」


「 あと唇も荒れてるからリップクリームも。

それも好きな匂いのモノを作らせよう。 」


翔は口元を覆う手をパッ!と離し、親指で唇をクニクニと弄んできた。


「 ────っやめろってば!! 」


顔を振ってその手から逃れたが、翔はそのまま俺を押さえ込む様に抱きしめてきたので、身動きが取れない。

流石の暴挙にムカっ!として、怒鳴ろうとした瞬間────翔がボソッと耳元で呟いた。


「 何か嫌なの?

だって源は何にも嫌な事ないのに。 」


まるで子供に言い聞かせる様な口調になんだかゾッとしたが、ちゃんとその理由を答える。


「 嫌だよ。

だって、なんでそんな翔の好きなモノを俺が使わなきゃいけねぇんだよ、バカか。 」


呆れた様に言ってやると、翔はんん~?と少し考える素振りを見せながら言った。
「 だって ” 俺が好きな匂いになる。”

” 源はただあるモノを使うだけ。”

その行為のどこに嫌な事があるの?

だって源は損なんてしてないじゃない?

例えば、源が今のシャンプーやボディーソープにこだわりがあるとか、自分で用意しないといけないとなると損だよね?

こだわりあったっけ? 」


「 ────えっ!!

…………????

いや、別にこだわりなんかないけど……。 」


薬局で一番やすいシャンプーとボディーソープ、リップだってそう。

こだわりなど皆無だ。

モゴモゴと答える俺に対し、翔は ” ね?おかしくないでしょ? ” と言わんばかりに首をコテンと横に倒す。

なんだかそういう問題じゃ無い気がするが、なんて説明していいか分からず黙ると……翔は更に買うモノをどんどん選び、全てスタッフの人たちに運ばせて車の中へ。

そして俺はまた車に押し込まれた。


「 …………。 」


恐怖しか感じない買い物量に青ざめているというのに、翔はやはり行きと同じ様に車が止まる度に俺の顔や口元を弄ぶ様に触る。

更に ” 可愛い ” ” 可愛い ” とまで言い出し、本格的な恐怖に襲われた。


「 ……お、俺……今日は実家に帰る……。

降ろしてくれ。 」


そう告げると、翔はニコッと笑いながら「 駄目。 」とハッキリ告げる。

その言い方は絶対に譲る気がない時のモノで、この場合いつも俺が仕方ないなと譲歩してきたが、今日は俺も引かない。


「 今日のお前は絶対変だ。

だから一旦距離をおこう。 」


「 …………。 」


翔は無視。

その後はシーン……とした車内で、気まずいまま結局俺達の家に到着してしまった。


「 ────っ! 」


とにかく嫌だという気持ちから、俺は即座にシートベルトを外して外に飛び出したのだが、突然どこからか現れたスーツを着た男たちに道を塞がれてしまう。

そしてそれを押しのけ外に出ようとしたが、そのまま優しく拘束されてしまい、” えっ!!? ” と驚いてしまった。

こいつら、絶対素人じゃない!

流れる様な拘束術にアワアワしていると、後ろからゆったりとした動きで翔がやってきて俺の二の腕を掴む。


「 さぁ、帰ろう。 」


「 いや、ほんっとに俺の話聞けって……。

っつーか、なんなんだよ、コイツラは。 」


掴まれた二の腕がやや痛くて顔を歪めながら尋ねると、翔はあっけらかんとそれに答える。


「 あぁ、源用の護衛達だよ。

いつも何十人単位で色んな所に待機させてる。

逃げるのは無理だよ、プロだしね。 」


「 はぁぁぁぁ~!!?? 」


突然聞かされる衝撃の事実!!

えっ?いつも……??


「 えっ、いつもって??? 」


「 ?毎日って事だよ。

何言ってんの?? 」


さも俺がおかしいみたいに言ってくる翔に……激しい怒りが湧いた。

どう考えてもおかしいのは翔!

こんなの絶対に絶対におかしい!!


「 いや、ふっざけんな!!

なんで俺がそんなプライバシーゼロの状態に置かれないといけねぇんだ!!

もうお前とは絶縁だ!!俺は実家に帰る!!

とっとと離せ!馬鹿野郎!! 」


大激怒して怒鳴ってやったが……翔は余裕そうにう~ん……?と首を傾げる。


「 そっか~。でも、それ俺は嫌なんだよね。

うん、じゃあ、仕方ない。

翔の実家を消そうか。

そしたら帰る所、なくなるでしょ? 」


「 …………はいっ?? 」


とんでもない一言にポカンとしていると、突然翔が胸元からスマホを取り出しどこかに電話し始めた。


「 あ、もしも~し。

今融資している< 木原会社 >との契約を今直ぐ切ってくれる?

────うん、そうそう。

それで根本っていう社員を切れば続けるって社長に言って。 」


「 ────っ!!!?? 」


< 木原会社 >は俺の父さんが働いている会社で、その社員は俺の父。

絶句している俺の前で翔はペラペラと喋り続ける。


「 それで、近所のスーパーでパートしている根本さんっておばさんもクビに。

あと< 洞野病院 >で働いている看護師の根本って女も切ってくれる?

う~ん……そうだね、適当に理由をでっち上げて────……。 」


「 ────翔!!! 」


翔の名前を叫ぶと、翔はピタリと止まり、ニコニコしながら俺を見つめた。


「 なに? 」


「 ……なんでそんな事するんだ。

酷すぎるぞ。 」


本気で怒りながらそう言ったのに、翔は本気で分からないのかキョトンとした顔を見せる。


「 ?だって仕方ないでしょ?

源が俺から離れるなんて言うから。 」


自分の望みを叶えるためにこんな事を平気でするなど正直考えられなかったし、しかもその望みが俺が離れない事?

なんじゃそりゃ!!と大声で叫びたかったが、今は家族が酷い事になるのを止めるのが先決だと、俺は静かな怒りを込めて翔に言った。


「 実家に帰らないから……それ、止めろよ。 」


「 そっか。良かった。

────もしもし?やっぱり今の話は全部なしで。

うん、またお願いね~。 」


通話を終えた翔は、スマホを胸ポケットに入れニコニコ笑いながら俺の手に自分の手を絡める。


「 じゃあ、帰ろうね。俺達の家に。 」


「 ……あぁ。 」


いわゆる恋人繋ぎの手にゾゾゾ~!としたのだが、とりあえず今ここで何か言えば家族に被害が及ぶ可能性もあるため大人しくする事にした。

すると大人しい俺を見てどんどん機嫌がよくなっていく翔はそのまま家へと歩き出す。

イタズラ?

嫌がらせ?

家に着いた途端サプラ~イズ!とかやる?

エレベーターに乗ってる間ありうる可能性を思い浮かべてみたが、その間も翔は髪や顔を弄ったり、臭いを嗅いできたりと気味の悪い行動をし続けた。

その行動はまるで…………。




恋人同士のようだ。

「 ────~っ!! 」


ブルっ!と体が震えてしまい、それを目ざとく翔に気づかれてしまう。


「 どうしたの?寒い? 」


翔は頓珍漢な質問をしながら、俺の体を抱き寄せた。

その行動にも、サァァァ~……と血の気が引き、思わず体を離そうとしたが、さっき起こった事を思い出し動きを止める。

とりあえず家に着いたら、なんでこんな事をするのか冷静に話し合おう。

そう誓って動かずにいると、翔は満足そうに微笑み、そのままエレベーターの後ろに俺の体をつけた。

そして体を密着させて鼻がつくくらいの距離まで顔を近づける。


「 ……なっ、なっ、なっ、……っ……!!? 」

「 ────あぁ~……可愛い。

今までなんで気づかなかったんだろう? 」


近すぎてピントがボヤけてもパーフェクトな美しさは現在だが、言ってる事はパーフェクトから程遠い。


「 はっ……?か、かわ────?? 」

「 もう可愛い、可愛い。世界一可愛いよ、源はさ。 」


熱に浮かされる様にブツブツ言う翔が気味悪いを通り越して心配になったが、ハッ!と思い出すのはここがエレベーターの中だって事。

流石にこんなの見られたら、恥ずかしくて死ぬ!


「 ────っ分かった!分かったから、離れろっ!! 」


翔の口元を覆い、なんとか顔を離すと、翔はプゥ……と小さく頬を膨らませる。


「 …………。 」


「 ……エレベーターの中だぞ?俺はこんな所で嫌だから! 」


素直に答えると、翔はパッ!と嬉しそうな顔へと一瞬で変わった。


「 うん。分かった! 」


……いや、本当に分かってる??

翔は心配になるくらいいい返事をすると、チンっ!とエレベーターが最上階へ着いた瞬間、俺を抱き抱える様に部屋の中へ連れてく。

────バンッ!

そして勢いよく扉を閉めると、そのまま後頭部を鷲掴みにされキスされた。


「 ────っ!!??────っ!!? 」


パニックを起こす俺を置き去りに、そりゃ~もう!

ベロベロ、チュチュチュッ、グッチャグッチャと、キスと言うには随分と攻撃的な行為をされる。

ちなみにコレが俺の人生初めてのキス。

ことごとく翔に邪魔されてきたせいで。


「 ~~っ!!────っ!! 」


「 ────ハァ……ハァ……。

は……ははっ……すっごい興奮する。 」


翔はいつもの様に余裕がある様子ではなくて、見たこともないくらい必死な様子だ。


「 か、かぇ────……。 」


散々絡め取られた舌が痺れて呂律が湧いて回らず……それでも何とか名を呼ぼうとしたが、そこで恐ろしい事実を知って言葉を飲み込んだ。


────え……?

た、勃って……??

         
言い訳しようがない翔のソレ(ルビ)に驚き呆然としていると、今度は可愛らしいフレンチキスをされ、正面からギューっと抱きしめられる。


「 これから沢山愛し合おうね!

──あぁ、早く源の中に入りたいな……。

そしたら、もう全部俺のモノだ。 」


「 あ、愛し────……?? 」


クラクラしながら呟くと、翔は俺の胸ぐらを掴み、そのまま一気にシャツを破り裂いた。


「 ────うわっ!! 」 


「 これはもういらないから捨てようね。ダサいし。

これからは俺の買った物だけしかダメ。 」


失礼な言葉に、ムカっ!として抗議しようとしたが、またキスされて口の中を舐め回され、言葉はとられてしまう。


「 ──…………うぅ~……。 」


そっちに意識が全て持ってかれている間に、翔はズボンをやはり乱暴に脱がしてくるので、慌てて落下を抑えていると────その手は後ろに回されパンツの中へ。 


「 ────っ……────っ!!? 」


中の尻の肉をグッ!と掴まれ、一気に体温が下がったが……逆に翔の体温は上がった気がする。


「 源……源……源……。 」


うわ言の様に呟きながら、モニモニとお尻を揉んでくる翔に────とうとう俺は限界を迎えた。


「 わぁぁぁぁぁぁぉぁ────!!!!

あ────!!!あ────!!!ぁぁぁぁぁ────!! 」


「 !!? 」


ワーワー!と大声で叫ぶ俺に、流石に翔も動きを止めるしかなかった様だ。


「 えぇ~……。あのさ……もうちょっとだけ色気だしてくれない?

萎えるでしょ。

────まぁ、源らしくていっか。 」


萎えるとか言っているが、一向にガッチガチな下半身のまま、また俺の体を弄り始めた翔の顔を鷲掴み、更に続けてワーワー!と叫んだ。


「 嫌だ!嫌だ!絶対嫌だ!! 

俺は根本 源! 」


「 ……いや、知ってるよ。

何で自己紹介なんてしてるの?? 」


呆れ顔の翔は、自分の顔を鷲掴む俺の手を優しく外し、チュッとキスしてくる。

それにもゾワッ!としたが、それ以上に────俺が源だと知っているのに、おっ始めようとしている事に絶望した。

最悪何か勘違いしていると思っていたのに……!


「 ……か、翔は、お、お────……俺の事好き……なのか? 」


唖然としながらそう尋ねると、翔はあっさり頷く。


「 うん。好きー。

だからセックスしよう。 」


まるで近所のスーパーへちょっと買い物に~レベルで言われて、ゴクリっと喉がなる。

翔は俺が好き。恋愛的に。

その事実を理解すると、凄まじい衝撃に頭を殴りつけられた様な痛みに襲われた。

い、今までそんな素振りなんて────?……と思ったが、チリッ……と引っかかる記憶が頭の中を過っていく。


” お前姉さん女房でもいるのか?

いつもお弁当豪勢だし、洗濯物だっていつもピシッ!としていて完璧だよな~。 ”


” あ、俺も気になってました~。

羨ましいっす~! ”


” いくら惚れててもそこまで彼氏のためにできないわ~。

根元君愛されてるわね。 ” 


会社の同僚や上司、後輩までもが口々に俺の事を見てそう言ってくる。

そのため職場ではすっかり、彼氏にベタ惚れしている姉さん女房的な彼女持ち……みたいに思われているのだが、それをやってくれているのは同じ男の幼馴染だ。

そのため気にしていなかったが……もしかして翔は随分前から俺の事を……?


「 ……ご、ごめん。 」


翔がクニクニと俺の無い胸の乳首をこねくり出したのを止めずに、俺は慌てて謝る。

これじゃあ俺は、相手の恋心を利用するクズヒモ男と同じじゃないか!

「 俺は翔の事を恋愛的に好きじゃないから、セックスなんてできない。

それに女性が恋愛対象だから、翔がその対象になる事もない。

だから本当にごめん。 」


ここは下手に期待をさせずハッキリ自分の意思を告げ、今まで貰ってきたモノを返していかなければ駄目だと考えた。

このままズルズルと翔の時間を奪っては絶対にいけない。

俺は性欲は人より少し弱いと思うが、その対象は女性……だから申し訳ないが翔の想いには答えられない。

相当な覚悟を持ってそう告げると、翔はハァ……と大きなため息をついた。


「 そう。分かった。 」

「 ごめんな……。 」


申し訳無さに下を向こうとしたが……翔は俺の顎をグッと強い力で掴み上を向かせると、そのままニッコリ笑った顔をこれでもかと近づけてくる。


「 ────で? 」

「 ……えっ??な、何が……?? 」


言っている意味が分からず聞き返すと、翔は更に大きなため息をついた。


「 ん~……だから、今後の予定だよ。

じゃあ、まずはキスに慣れる所から始めて、徐々に触れ合う様にしていくしかないかな。

はやくセックスしたいけど……まぁ、ここは公平にしないとね。 」


「 …………。 」


────えっ?全然意味が分からない。

公平って何が???


「 いや……だから、俺はお前の気持ちに答えられないって────……。 」


「 ??二回も言わなくても大丈夫だよ。

だから頑張ろうね。 」


「 ?????? 」


もう理解が追いつかず、プスプス黒い煙が脳から吹き出す様になると、翔は俺のオデコにチュッチュッとキスをしながら説明してくれた。


「 全く……源は本当に頭が弱いなぁ~。

だから、源は俺の気持ちを受け入れたくない。

俺は好きだから受け入れて欲しい。

そういう事でしょ? 」


「 うんうん、そうそう。 」


ズバリ告げられる今の状況に、必死で頷く。

恋愛とは俺の常識ではそうやってすれ違い、一方の気持ちが帰ってこなければ成立しないモノだ。

つまりこの恋愛は成立しない!────が当然の答えだと思っていたが、翔は全く予想外の答えを口にした。


「 じゃあ、ここで恋愛にしない!ってなると、源の希望だけが通るって事じゃない?

それってすごく不平等だよね?

だから、源はこれから気持ちを受け入れる様に少しずつ努力する事。

俺は直ぐにセックスしたいけど我慢して少しづつ進める事。

ほら、これでお互い我慢しないといけないから平等になったね! 」


「 ????え……??

えぇぇぇぇ…………?? 」


ゴチャッ!とした頭で必死に考えると、とりあえず俺も翔も我慢する事は確かに同じ。

でも────……なんか違う気がする!!


「 いやいやいやいやっ!!?

なんか違う気がする!!

やっぱりそれ、おかしいだろ! 」


「 ??どこが??

でも……そっか~!源は自分の想いだけを通して良いって考えなのかな?

だったら俺もそれで。

はい、遠慮なくいただきま~す。 」


ニッコリとそれはそれは美しい顔で笑った翔は、そのまま俺の乳首をコリコリと弄りだし、ズボンを力ずくで降ろしてきた。

そしてまたしてもお尻の奥に向かって指を伸ばしてきたので……俺は力の限り叫ぶ。


「 分かった────!!!

それでいいから!!それでお願いしま────す!!! 」


体中鳥肌を立てながら半泣きで叫ぶと、翔は少々不貞腐れながらも手を止めてくれた。


「 ……はぁ。まぁ、仕方ないか~。

ホントはこのまま無理やり進めたいけど、少しづつ進めていくのも楽しいかもね。

そういうのしたことないし……。

じゃあ、とりあえずお風呂でお互いの体を洗う所からしてみようか。」


「 ……あ、あぁ……。じゃあ、それで……。 」


背中の流し合いなら初めてではないので了承すると、翔はほぼ丸裸の俺の服を丁寧に脱がし、次に自分の服を豪快に脱ぎ捨てる。

するとどうしても目が行くのは、まったく治まる事のない翔のソレ。

男として凄いと思う……それはそれはご立派なモノだ。


「 さ、俺ちょっと限界だから早く。 」

「 ……ん……?んんん~??? 」


唖然とそれを見ながらお風呂へ直行すると、泡と共に翔の身体を洗わされた。


えっ?なんかおかしくない??


初めてマジマジと見せつけられる他人の身体と、洗ってみよう体験の様な事をさせられている異常事態に、思考は遥か彼方へ飛んでいく。


「 ……うん……凄く気持ちいいよ。

本物の源の手……っ……。 」


そんな翔の声も耳から抜けて、もう無心で手を動かしていると……合間合間にベチャベチャキスの猛攻撃を受ける。


「 ……そうそう、上手上手。

ほら、お返しにココ洗ってあげるね。 」


そうして気がつけば風呂場に押し倒されていて、体中を触られるし舐められるし、もう体を汚しにきたの?と尋ねたい状態になった。


「 ……えっ…………????

????

ん……んんんっ???! 」


「 こうやってゆっくりお互いを知っていくって、面倒だけど……なんか良いね、こういうのも! 」


翔はクスクスと嬉しそうに笑いながら、楽しそうに触れてくるので、、本気で焦って翔の胸元を力いっぱい押す。


「 やっ、止めろって……!

こ、こんな事…………うわっ……!! 」


「 ん~……? 」


翔は俺の抵抗などものともせずに、俺の足を掴んで、まるでおむつを変えられる赤ちゃんの様な格好をさせた。


「 ……ハハッ。……すっご……。

源の全部……丸見えじゃん……。 」


翔は息を乱しながら、ジロジロと俺の全てを舐める様に見つめてくる。

「 ────っ!!や、やめろよ!!

恥ずかしいから!! 」


「 ハイハイ。分かってる分かってる。コレは駄目か……。

少しづつって約束だもんね。 」


無防備に晒される下半身の状態が心底恐ろしい!

恐怖にブルブルと震えていると、翔はそのまま探る様な手つきで俺の身体を洗い続けた。

目の前には、本当に幸せそうに微笑む翔の顔。

俺は殆ど我慢大会の様に、さわさわ触ってくる翔の手から与えられる刺激に耐える。

しかし、翔は俺の反応があった部分ばかりを重点的に触ってくるため、とうとう俺の限界が越えた。


「 ……ちょっ……も……む、無理だからっ!!

無理無理無理────っ!!!! 」


「 あー……もう、可愛い、可愛い、可愛い。

何だよ、コレ。 」


いや、お前がナニ!?


翔は半分意識がないんじゃないかと心配になるくらい、その行為に夢中で……俺の声は全く聞こえてない様だ。

結局その後、翔はお風呂場からベッドへと移動して、また飽きもせずに俺の身体を触りまくった。

どんどん激しくなっていくお触りに最後はショックで気絶してしまったが、翔の方はその後もひたすら俺の体を触っていたらしい。

朝起きたら、身体中の皮膚がヒリヒリして痛かったから。




◇◇◇◇


「 ……なんか、根元変わったよな……。 」

「 はぁ?? 」


昼休み────同期のアズマが訝しげな目をしながらお弁当を広げた俺に言ってきた。


「 ……いや、なんも変わってねぇよ。 」

「 い~や!変わったね!

前はそんなお洒落なんてしてなかったじゃねぇ~か! 」


ビシッ!と俺のスーツや時計、更には通勤用バックを順番に指さしていき、最後は顔を近づけクンクン!と匂いまで嗅いでくる。


「 ……気持ち悪いヤツだな~。匂いとか嗅ぐなよ。 」


しっ!しっ!と祓うように手を振りアズマを遠ざけるが、ジト~とした目で睨まれた。


「 匂いもなんか高貴な感じの匂いするし……なにより持っているモノがなんかめちゃくちゃ高いヤツだろ、それ!

あきらかに近所のデパートとかに売ってるヤツじゃねぇじゃん! 」


「 ……あ、う……うん……。 」


気まずさから下を向いてしまった俺は、なんとなく自分の腕に巻かれている腕時計を見下ろす。

スーツも腕時計もバックも……なんなら履いているパンツですら、全部翔から買い与えられたモノだ。



最初に好きだと告白され、更に少しづつ慣れていく事を約束させられてから、部屋には毎日の様に包装されたプレゼントみたいなモノが積まれている。


「 これもこれもあれも……全部似合うと思って買っちゃった。 」


「 …………。 」


その光景は海外の映画に出てくるクリスマス風景の様。

子供たちのために用意された沢山のプレゼント。

多分ここにクリスマスツリーがあれば、まんまそれ。


見上げる様なプレゼントを無言で見上げていると、翔は後ろから覆いかぶさる様に抱きしめてきて……目の前にぴらッとフリルがついたTバック?パンツを見せてきた。


「 今日はコレ着てよ。

お尻は丸見えになっちゃうけど、前はちゃんと隠れるよ。

おそろいのブラジャーも作らせたから着けてね。 」


「 …………。 」


震える手でそれを受け取ると、布の面積を確かめる様に手でゴソゴソと触ってみたが……どうみてもフリルがちょっとついた紐だ。

しかも追加で渡されたおそろいのブラジャーにいたっては、500円玉くらいの布が2個、紐で繋がったただの布で乳首がやっと隠れるくらいしかない。


……全裸の方がマシ。


そう答えを出して突き返そうとしたが、あっという間に裸に剥かれ、習慣化しているお風呂での触りっこタイムに入られてしまえばもう何も言えない。
結局お風呂から出たら、先程渡された変なパンツとブラジャーを着けられそのままベッドでまたペタペタと好き放題に触られた。


「 ……ハァ……ねぇ、ねぇ、源、ここは?

ねぇ、ここは? 」

「 ────っ~~っ!!! 」


色んな所に色んなタイミングで触れてきて、自分でも知らない感覚を探り探りで見つけられるのが怖くて怖くて……。

思わず縋る様に目の前の体に抱きつくと、翔はいつも幸せそうに笑った。

ニコッ!とまるで子供の様に。


そういえばコイツって、最初に会った時は全然笑わないヤツだったよな~……。


その笑顔を見ると、どうしても力が抜けてしまい恐怖は和らぐ。


……ま、いっか。


翔がそんなにも嬉しいなら、好きに触ればいい。

まぁ、嫌だっていっても無駄だけど……。


そんな心境になり────今に至る。




いや、何してんだよ~……俺は。

今までの事を思い出し、ズーン……!と気持ちは沈んでいき、絶望する気持ちで机に顔をつけた。


恋愛的な気持ちに答える事もできないというのに、ズルズルズルズル……。

これではマジでただ悪質に男に貢がせる悪女じゃねぇか!


凹んで覇気をなくした俺に、アズマは「 羨ましいぞ!このこの~っ! 」と頭をペチペチと叩いてくる。

地味に痛いソレをそろそろ止めさせようと、顔を上げた瞬間……近くを歩いていた同期の女性事務員< 和恵 >がササ~ッ!と俺の方へ近づいてきた。


「 ビジネスバックは有名ハイブランド製の90万越え。

スーツは多分オーダーメイド一点モノ……200万越え。

更に髪質と肌の調子から……日用品もかなり良いものを使っているとみた。

もしかしてエステも……? 」


ジロジロジロ~!とチェックしてくる和恵をジト……と睨むが、和恵は怯まない!


「 ……止めろよ。

そういう人の持ち物の値段を…………ん?

……??え、何?何??

もう一回言ってくれ。 」


「 あ、ちなみに今日の一番はその腕時計ね。

海外の老舗時計ブランドが、確か限定生産で作った希少モデル。

お値段は少なくとも5000万は越えていたはず……。 」


” 5000万 ”

家が買えちゃう値段に、ポンッ!!と髪の毛が全て空を飛び、隣にいるアズマの髪も同じく宙を舞う。

そしてガタガタと震えだし、腕時計もそれと連動して細かく揺れ動いた。


「 ば、ば、ば、ばっか野郎……!

そ、そ、そんなわけ……。 」


「 もしかして一億超えるかもね~。

あんた、ものすごい大富豪のお嬢さんでも捕まえたの? 

だったら誰か友達紹介して~♡ 」


和恵は可愛らしくキュルン!と目を輝かせたが、目の奥はギラギラとぎらついている。

多分これが言いたくて近づいてきたに違いない。

婚活始めたって言ってたから……。


しかし、あまりの衝撃に俺はそれどころじゃない。

和恵を気にする余裕もなく、ガタガタ震えながら腕時計を見つめた。


こんなヤバいモノ達を平然と使っていたとは……。


俺は即座にポケットからハンカチを出し、時計を外すと────そのままソッ……とハンカチで包み込む。


「 これは俺の腕に巻いておいたら危ない。

このまま返す。 」


「 ちなみにそのハンカチも10万超えてるわね。 」


ぎゃふんっ!!!

トドメの一発に血反吐を吐いて床に崩れ落ちた。

勿論時計は抱きしめていて無事。


ガクガク震えながら立ち上がり、時計をバックの中に丁寧に入れておくと────突然周りにいた男性社員達が色めき立つ。

一斉に部内の出入り口の方を見るので、視線を追うと……その理由を知って大いに納得した。


以前はふわふわパーマのロングヘアだった髪型は、今や清楚なストレートサラサラヘアーに。

しかしまるでお人形の様なぱっちりお目々に、色白の肌に華奢な体は相変わらず変わらない。

外見はザ・お姫様。

文句なしの美女< 蝶野 舞子 >


彼女がこの部署へ届け物をしに来たため、男性職員達は色めきだったというわけだ。


「 くぅ~っ!!蝶野さん、やっぱりめちゃくちゃ可愛いよな~!!

あ~話掛けられただけで、俺気絶する~! 」


アズマも同じく目をハートにして興奮していたが、俺と和恵は大きなため息をついた。