翌日、アキラは食堂で朝食を取りながら、リリスの様子を伺っていた。先日の会話から少し距離が縮まった気がしていたが——

「アキラ、教育係として命を張る覚悟はある?」

「え、いきなりなんですかその物騒な発言!?」

リリスはパンをもぐもぐしながら、にやりと笑った。

「これから外に出るわよ。王都で開かれる剣術大会に参加するの。」

「……え?」

アキラは思わずパンを吹き出しかけた。

「剣術大会?リリス様が? 貴族の令嬢がですか?」

「そうよ。これでも一応剣術は得意なの。知らなかった?」

「初耳です! というか、なんで急にそんな展開に!?」

リリスは得意げに腕を組む。その金色の髪は太陽の光を浴びて輝き、青い瞳には自信が満ちていた。

「大会にはいろんな貴族や王族が集まるの。今後の立場を考えると、ここで目立っておきたいのよ。」

「……ああ、なるほど……いや、分かりますけど、教育係の私まで巻き込まれるんです?」

「当然よ。他の貴族達に失礼のないようにね?」

アキラは深いため息をついた。(貴族や王族への対応なんて自信ないですよ……っていうか、もし貴族の人に失礼でもしたら俺クビなんじゃ……?)

アキラはプレッシャーで脇汗がふき出たのを感じた。

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大会の開催場所、王都の訓練場には多くの観客と参加者が集まっていた。リリスはすでに剣士用の装束に着替え、凛とした表情で待機している。その装束は、動きやすさと格式を兼ね備えた白を基調とした軽鎧で、胸元にはクラウゼル家の紋章が刺繍され、腰には鋭利な剣が吊るされている。細身のシルエットがリリスの優雅な体格を引き立て、品格と実戦向きの気迫を漂わせていた。

「……本当にリリス様、剣術大会に出場するんですね……」

「何? 怖じ気づいた?」

「いえ、怖じ気づくのは私じゃなくてリリス様では……?」

「フン、見てなさい。あなたの度肝を抜いてあげるわ。」

リリスは得意げに微笑むが、その裏には少しの緊張が隠れているのをアキラは見逃さなかった。

「……リリス様、緊張してますね?」

「べ、別に……そんなわけ……!」

アキラはそっと呟く。「無理しなくていいんですよ。今日は、少しでもリリス様が自分を誇れるような日にしましょう。」

リリスは少し赤くなった顔をそむけた。

「……あんた、本当に変なやつね。」

「よく言われます。」

その直後、場内に響く大声がした。

「次の対戦者、リリス=フォン=クラウゼル嬢!」

「さ、リリス様、行ってらっしゃい!」

「え、もう!? ちょ、心の準備が——」

アキラは苦笑しつつ背中を軽く押す。「頑張ってください、リリス様!」

リリスはしぶしぶながらも剣を構え、戦場へと歩み出していく。

この剣術大会は、年に一度王都で開催される大規模な催しであり、貴族や王族の若手が己の剣技を披露し合う、社交と名誉の場でもある。剣術の腕前だけでなく、礼儀や品格も見られるため、出場者にはそれ相応の気品が求められるのだ。