ある日の朝、アキラは早速リリスのスケジュールを確認していた。

「さて、今日はリリス様と一緒に庭園を散歩しながら、軽く運動と世間話を……」

だがその時、扉がバンッと勢いよく開いた。

「アキラ!今日の予定、全部キャンセルよ!」

「は、はい?!」

リリスは腕を組んで仁王立ちしている。

「今日は一人で散歩に行くから、あなたはお城でお留守番してなさい!」

「いえ、それは教育係として……」

「わがままじゃないわよ!これも自主性を伸ばすための試練なの!」

「誰の?」

「私のよ!」

アキラは苦笑しつつも、リリスが何かを隠しているような雰囲気に気づいた。

(どうも怪しい……リリス様が自主的に動くなんて、これは何か裏があるな)

結局、アキラはこっそり後をつけることにした。

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リリスは城の裏庭を抜けて、誰も来ない森の奥の開けた場所に向かっていた。そこには、大きな木の根元に隠すように置かれたキャンバスと絵の具が。

「やっぱり、ここだったか……」

リリスは誰もいないことを確認すると、さっそく絵筆を握りしめた。

「……ふふ、やっぱり描いてる時が一番落ち着くわ。」

木漏れ日が差し込む中、リリスは楽しそうに筆を動かす。普段の高飛車な態度とは打って変わった、穏やかな表情だった。

そんなリリスの姿を、木陰から見つめるアキラ。

(……やっぱり、リリス様には素直な一面があるんだな)

アキラは嬉しくなりつつも、そっとその場を離れようとした――が、

「……見てたわね?」

「ひえっ!?」

振り返ると、リリスが絵筆を持ったまま、ジト目でこちらを睨んでいた。

「え、い、いえ、あの……その……通りすがりの……」

「木陰からじーっと見つめる通りすがりが、どこにいるのよ。」

「……ごもっともです。」

その後、アキラはリリスに小一時間説教を受ける羽目になったのだった。

「……まったく、次からは許可を取ってから見に来なさい。」

「はい、次からはこっそりじゃなく、堂々と見学させていただきます!」

「それはそれで、嫌なんだけど……。」