アキラの貴族教育はまだ始まったばかりだった。

「次の課題は食事のマナーよ。」

執務室で礼儀作法を学んだ後、アキラはリリスに連れられて城の豪華な食堂にやってきた。白いテーブルクロスが敷かれ、目の前には何十種類もの食器が並んでいる。

「……あの、フォークとナイフ、多すぎません?」

「当然よ。貴族の食事は格式がすべて。どの料理にどのカトラリーを使うか、一つ間違えれば笑い者になるわ。」

「えっ、そんなプレッシャーのかかる食事、楽しめなくないですか?」

リリスがため息をつきながら言った。

「これだから庶民は……。いい? これから基本の食事マナーを叩き込んであげるわ。」

アキラは半ば強制的に席に着かされ、リリスとレオンの見守る中、優雅な貴族の食事に挑むことになった。

「では、最初の料理よ。これは前菜のサラダね。」

給仕が銀のトレイに乗せた美しいサラダを運んできた。アキラはちらりとリリスを見る。

「えっと、この場合は……たぶん、一番外側のフォーク?」

「正解よ。まあ、初歩の初歩だけどね。」

アキラはホッとしながらサラダを口に運んだ。だが、次の瞬間——。

「うぐっ!?」

彼の口の中に広がったのは、まるで火を吹きそうな激辛ドレッシングだった。

「こ、これ……辛っ!?」(うがああぁあ!舌が燃えてる…!)

「ふふ、なかなか良いリアクションね。」

「ちょ、ちょっと待って、これ絶対わざとですよね!?」

リリスが扇子で口元を隠しながら笑う。

「貴族の世界では、どんな料理が出ても優雅に対応するのが基本よ。まさかこんなことで取り乱したりしないでしょう?」

「いやいや、これは想定外すぎる!」

レオンも苦笑しながら言った。

「まあ、気持ちはわかるけどね。でも、貴族の宴席では驚きを顔に出すのはタブーだよ。」

「それならせめて、辛いものが出るって事前に言ってくれれば……!」

そんな調子で、アキラの試練は続いた。

——そして。

「次はメインディッシュよ。ステーキを食べてもらうわ。」

「よし、これは大丈夫なはず……!」

アキラは意気込んでナイフを手に取った。しかし、ここで問題が発生する。

「……硬っ!?全然切れないんですけど!」

「ふふ、腕の力で切ろうとしてるわね。ナイフの使い方にもコツがあるのよ。」

「なるほど…?」

「角度を工夫して、刃を滑らせるように切るのよ。」

アキラはリリスの手本を見ながら慎重にナイフを動かし、ようやく一口大のステーキを切り分けることに成功した。

「……やった!」

「ステーキを切れたぐらいでそんなに喜ぶのか?」レオンが呆れたようにツッコミを入れる。

「合格ね。まあ、50点といったところかしら。」

「結構頑張ったのに50点かぁ……。」

こうして、アキラの貴族教育はまだまだ続くのだった。