翌日、アキラは昨日のスライム果実ジュレ事件を引きずりながらも、新たな課題に挑むこととなった。

「さて、今日の課題は…」

執務室に呼び出されたアキラの前で、リリスは優雅に扇子を広げながら微笑んだ。

「今日は社交界での挨拶と礼儀作法を学んでもらうわ。もちろん、実践形式で。」

「実践って…まさか…?」

「ええ、今からお客様がいらっしゃるわ。」

「聞いてない!まだ昨日のジュレのトラウマから回復してないのに!」

「教育係なら、いつ何時でも完璧であるべきよ。」

アキラはため息をつきながら、目の前に置かれた分厚い礼儀作法の本をめくった。

「えーと、『貴族への挨拶は、相手の身分に応じてお辞儀の角度を変えることが望ましい』…いや、細かすぎるでしょ!」

「当然よ。失礼のないよう、しっかり学んでおきなさい。」

そうこうしているうちに、執務室の扉が開いた。そこに立っていたのは、金髪の美しい青年だった。

「リリス、久しぶりだね。」

「レオン様、ようこそいらっしゃいました。」

(うわ、見るからに王子様キャラ…)

アキラは心の中でぼやきながらも、リリスに促され、挨拶した。

「初めまして、アキラと申します。リリス様の教育係を務めさせていただいております。」

「ほう、君が噂の新しい教育係か。リリスに教育…大変そうだね。」

「ええ、まぁ…その…想像以上に大変です。日々、胃に穴が開く思いですよ。」

「ちょっと、それ私の前で言うこと?」

リリスがじろりと睨むと、アキラは軽く肩をすくめた。

「いやいや、こ、これはちなみに悪口ではないですよ?」

「そう言いながら汗が出てるわよ?」

リリスが扇子をぱちんと閉じると、レオンは微笑みながらアキラをじっと見つめた。

「ふむ、君、なかなか面白いね。」

「あ、ありがとうございます」

「別に褒めたわけじゃないさ。あと、僕も貴族なんだ。まだ、君から正式な挨拶をしてもらってないんだけど?」

リリスの方をちらっと見ると、楽しげに頷きながら、扇子をぱたぱた仰いでいた。

(い、いや、ちょっと待ってくれ…俺、まだ礼儀作法の本を半ページしか読んでないんだけど…!?)

アキラは内心パニックになりながらも、必死で頭の中の知識を引っ張り出した。

「えーと、たしか…貴族に対する正しいお辞儀の角度は…」

リリスが楽しそうに見守る中、アキラは覚悟を決め、適当に角度をつけてお辞儀をした。

しかし。

「…君、どうして90度も頭を下げるんだい?」

「えっ!? 違いました!?」

「それは臣下が王に対して行う礼だね。僕はまだ王になっていないよ。」

リリスが溜息をつきながら扇子で口元を隠し、くすくすと笑った。

「ふふっ、あなたって本当に面白いわね。」

「笑い事じゃないですよ! いきなり貴族の礼儀作法って、ハードル高すぎるんですけど!」

レオンも苦笑しながら肩をすくめた。

「まぁ、徐々に慣れていけばいいさ。でも、リリスの教育係を務めるなら、しっかり学んでおいた方がいい。」

「はい…。」

その後、アキラは貴族らしい振る舞いや会話術を学ぶため、リリスとレオンによる徹底指導を受けることになった。