試合開始の合図と共に、リリスは鋭く踏み込み、相手の巨漢の剣士に向かって一直線に突き進んだ。観客席からはざわめきと歓声が湧き上がる。

アキラは食い入るように戦況を見つめた。

(リリス様、速い! でも、あの相手はおそらく力押しタイプ……大丈夫か!?)

リリスは相手の大剣を巧みに避けつつ、隙を突いて反撃を仕掛ける。しかし相手もただの剣士ではなかった。リリスの突きを剣の柄で受け止め、力で押し返す。

「ふん、軽いな。令嬢の剣術なんて、見世物か?」

「……言わせておけば」

リリスは冷ややかに返し、距離を取った。観客席からは驚きの声が上がる。彼女の動きは明らかに、ただの貴族の令嬢とは一線を画していた。

「リリス様、がんばれ……!」

アキラは、手を握りしめて応援する。そして、例のエリオット王子も相変わらず楽しげに戦いを見つめていた。

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試合は白熱したものになった。リリスの俊敏さと技術、相手の剛力と防御。拮抗した攻防が続く中、アキラはふと思い出していた。

(……リリス様のこういう真剣な顔、普段はあまり見られないんだよな)

いつもは気が強くてワガママな面が目立つが、今の彼女はまさに一人の騎士のようだった。

だが、その時——

「しまった……!」

リリスが一瞬足を滑らせた。相手の大剣が容赦なく振り下ろされる。観客席が凍りつく中——

「……!」

リリスは素早く体勢を低くし、ギリギリで回避。そして、そこから一気に間合いを詰め、相手の防御の隙を突いて剣を喉元に突きつけた。

「ここまで、ね」

試合終了の合図が響く。会場が一気に沸き上がった。

「おおおおおおおおっ!」

アキラも思わず立ち上がり、歓声を上げた。

「す、すごい……リリス様!」

その時、エリオット王子もくすりと笑っているのが目に入った。

(やっぱり……王子様、リリス様に興味を……!?)

波乱の予感を胸に抱えつつ、アキラは試合を終えて戻ってくるリリスを待つのだった——。