リリスが戦場に向かって歩みを進める中、アキラは観客席から彼女を見守っていた。この戦場は円形の闘技場のような構造で、中央には滑らかな石畳が敷き詰められており、四方を高い観客席が取り囲んでいる。周囲は旗や紋章で華やかに彩られていて、緊張感と熱気が入り混じる、格式高い決闘の舞台だった。

「……いや、これ俺も緊張するな……」

脇汗を拭いながら、アキラは周囲の観客席を見渡す。王都の貴族やその子息たち、さらには他国の使節団らしき一団までいる。まさに華やかだが、独特の重苦しい空気が漂っていた。

「リリス様、大丈夫かな……」

そうぼやきながら目を凝らすと、一際異彩を放つ少年がいた。観客席の最前列、貴族たちの間で孤高の狼のように、一人だけぽつんと座っている。銀髪に鮮やかな赤い外套、片手には細身の長剣を携え、気だるげな表情で戦場を見下ろしていた。

「……あの子、他とは雰囲気が違うな」

周囲の貴族たちも距離を置いており、ただならぬ存在感を放っていた。アキラは、なんとなく気になって目を逸らせなかった。

その時、隣に座っていた使用人らしき青年が話しかけてきた。

「おや、あの方をご存知ないのですか?」

「え? いえ、初めて見ました」

「彼はエリオット=グランツ殿下。隣国ヴァルハルト王国の王子です。……ああ見えて、若き天才剣士として知られておりまして」

「王子……!? 」

アキラは思わず息を呑んだ。

「しかし噂では、かなり気まぐれで、興味のない相手には冷淡だとか。今日は何故か、こうして大会を見にいらしているようですね」

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一方、リリスは対戦相手と対峙していた。相手は貴族家の次男、筋骨隆々の青年で、その手に握られた剣はリリスの細身の剣よりも遥かに大きい。

「まさか、あなたが対戦相手とは……令嬢には荷が重いと思うが?」

相手は不敵に笑うが、リリスは冷たく言い放つ。

「その自信、剣で証明してもらえるかしら?」

「……へぇ、気の強いお嬢様だな。いいだろう、楽しませてもらう」

アキラは観客席からその様子を見つめ、内心でガッツポーズを決めた。

(よし、リリス様、いつもの無敵モード発動中だ……!)

直後、アキラはふと、エリオット王子に目をやると、王子が興味深そうにリリスを見つめていることに気づいた。

そして、王子は口元を緩め、楽しげに何かを呟いていた。

アキラは冷や汗をかきつつ、さらに脇汗が倍増するのを感じた。

(やばい……なんかリリス様、王族に目を付けられてないか……!?)

試合開始の合図が鳴り響き、リリスが颯爽と剣を振り上げた——!

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簡単にこの剣術大会のルールを説明しておこう。

基本的には一対一のトーナメント形式で行われ、勝者は次の対戦へと駒を進めていく。戦闘は模擬剣を用いて行われるが、剣士たちの実力によっては容赦ない打撃戦になることもある。試合は、選手が戦闘不能になるか、審判が勝敗を判定することで決着がつくルールだ。