「じゃあ2人1組になって」
部長がそう言ったので、僕はドキッとしてしまった。涼介と組みたいけど、そんなあからさまな事は出来ない。恥ずかしすぎる。みんなの様子を伺っていると、
「なるべく身長が近い人同士がいいよ」
と部長が言ってくれたので、暗黙の了解で僕と涼介が組むことになった。今から対面で後ろ向きに滑る練習をする。涼介は後ろ向きで滑った事はないらしい。
「ごめん、俺出来ない」
素直にそう言う涼介はカッコイイ。出来ないのに出来るフリするより、ずっとカッコイイと思う。やっぱりカッコイイ人は内面もカッコイイよなあ。
 まずは僕が後ろ向きになって滑り、次に涼介を後ろ向きにさせた。頑張っている様子がなんだか可愛い。って、目の前の可愛い人に夢中になりすぎた!前もって離れておけばよかったのに、僕たちは小さな子供がそり滑りをしている所へまっしぐらに進んでいた。というか、両方で交差しそうになっている。
「あ、止まって!」
咄嗟にそう言ったものの、遅かった。後ろ向きの涼介が回避できるとは思えない。僕は涼介の腕を思いっきり引っ張って、わざと後ろに倒れた。
 当然、涼介は僕の上に倒れた。その時、ゴーグル同士がぶつかって、そして……唇が!
 幸い子供とぶつからずに済んだ。でも、僕は余りの衝撃で動けなかった。身体的衝撃ではない。心に衝撃が。キス、キスしちゃったよ。あの涼介と僕が……。自分の心臓の音が聞こえる。しかも、今僕の胸の上に涼介の顔が乗っかって……やばい、手足が痺れて本当に動けない気がする。腰が抜けるってこういう事か。
「あ、あの……ごめん」
涼介がそう言って起き上がった。み、見ないでくれ、僕を見ないで。
「大丈夫か?」
と聞かれたから、
「うん……大丈夫、だよ」
何とかそれだけ絞り出した。
「大丈夫か、雪哉?」
急に神田さんの声がして、ハッと我に返った。
「怪我でもしたか?」
「ううん、僕は大丈夫」
そうだ、何をやっているんだ僕は。僕には恋人がいるのに、別の男に心を奪われていたらダメじゃないか。
 そう思ったら、手足は快復し、立ち上がる事が出来た。危ない危ない。うっかり堕ちるところだった。目の前にいる涼介は、あのRYOSUKEではないのだ。アニソンを歌う彼はステージにしかいないもの。僕は神田さんと上手くつき合っている。よそ見は絶対にダメだぞ。
「あの、ごめん……」
涼介がもう一度そう言った。
「涼介は悪くないよ」
今度は笑顔で言えた。僕は神田さんとつき合っている。だから、涼介を好きにはならない。でも……さっきのキスは無かった事にはしたくないような……後で何度も思い出してドキドキしそう。それくらいはいいよね。内緒の内緒。誰にも言わない。そっと1人で楽しむだけだから。