ショーケースを覗くと、予想外に様々なデザインの結婚指輪が並んでいる。うーん、俺が勝手に決めてもいいのだろうか。だがあいつはアクセサリーとは無縁だし、相談しても何でもいいとかシンプルなのでいいとか言いそうだよな。よし、最もシンプルなものにしよう。内側には2人の名前を入れて。
「これください」
「ありがとうございます。お試しなさいますか?」
「はい」
で、サイズを測ったら16号だった。
「お相手の方のサイズはお分かりですか?」
と店員に聞かれた。しまった。忘れていた。まあ、大体俺と同じじゃないかな……。と思ったものの、不安だったので試す事にした。だが内緒だ。サプライズで渡したいから。そこで俺はある計画を練った。
 夜中の1時。寝たふりをしていた俺。雪哉が寝入った事を確認し、先日作った俺の指輪をこっそりと取り出す。先に俺の分だけ作ってもらった。それを雪哉の指にはめてみて、同じサイズでいいかどうかを確認するのだ。
 慎重に、指輪を雪哉の指に差し込む。そうっと。ん?この指でいいんだよな。ちょっと第二関節に引っかかる。ぎゅっと押し込めば入りそうだが。雪哉の指は細いと思っていたが、俺よりも関節が太いようだ。そうか、あいつバスケをやっていたから、けっこう突き指とかしたのかもな。
 というわけで、俺の指輪よりも1つ大きいサイズにする事にした。試して良かったぜ。

 「どうしたの?こんな所に呼び出して。」
おしゃれなレストラン。窓の外にはきらびやかな夜景。
「今日はさ、ちょっとした記念日だろ?」
「記念日?」
雪哉は首をひねっている。だが、
「あ、分かった。僕たちが出逢った日だ」
笑顔になってそう言った。そう、今日はあのスキー場で初めて雪哉に会った2月7日。雪哉は俺の事をその前から知っていたものの、出逢ったと言えるのはこの日だ。だから、この日に思い切って言おうと思っていた。
 食後のコーヒーが運ばれて来た時、俺は小箱を取り出した。ここに2つの指輪が入っているのだ。
「雪哉、これを受け取ってくれ」
雪哉の方へ向けて、ケースをパカッと開けた。
「え?」
雪哉は驚いた顔をして俺を見た。そして再び指輪へと視線を落す。じーっと指輪を見て、なんと涙を流した。
「え、なに?なんで泣くんだよ?」
驚かせようと思ったのに、俺の方が驚いてしまった。
「これ、どっちが僕の?」
雪哉はささっと涙を手の甲でぬぐうと、笑ってそう言った。
「はめてみれば分かるぜ」
本当は、内側に書いてある字を読めば分かるのだが。
「あ、ぴったりだ。こっちが僕のだね?」
「そうだよ」
「どうして指のサイズが分かったの?僕自身にも分からないのに」
「あはは、すごいだろう」
色々あった事は、内緒である。
「ありがとう、涼介」
「受け取ったって事は、つまりOKなんだな?」
「ん?」
「俺と、結婚してくれるんだよな?」
「……うん」
照れながら頷く雪哉。俺は雪哉の左手を両手で包んだ。指輪をちょっと触る。
「ちょっと、こんなところで」
雪哉が周りを気にする。
「大丈夫だよ。人目なんて気にするなって」
俺が優しく言うと、
「はい」
素直に返事をする雪哉。いくつになっても可愛いなあ。一緒に暮らしていても見飽きる事がない。
「じゃ、役所へ行こうか」
俺がそう言って立ち上がると、
「気が早いね」
雪哉がそう言って笑った。
「善は急げって言うだろ」
「はいはい」
今日の日付で結婚したかったんだ。指輪の内側にも今日の日付を刻印してもらったしな。
 今の日本では、婚姻届は受理されないし、戸籍も一緒には出来ないけれど、区役所でパートナーシップ制度の申請は出来るから。婚姻と同等の権利が認められれば、里親になれる確率も上がると思うから。
 俺たちは新たな一歩を踏み出すのだ。