事務所に所属するための書類にサインはしたものの、正式な契約をするには、登録料とレッスン料が必要だと言われて戸惑った。これはやっぱり詐欺なのか、と身構えた。
「こちらもほとんど先行投資する訳だけど、うちのような小さい事務所だと、歌の先生を雇うにも先立つものがなくてね。それほど高額ではないから。デビューすればすぐに取り返せるよ」
早瀬に言われた。確かにうん十万もするなら断るが、登録料は2万円で、レッスン料は1ヶ月1万円と言われた。3ヶ月でデビュー出来るなら5万だ。それくらいならバイト代で何とかなる。
そういう訳で数日後、5万円を手渡して手続きは済んだ。
「レッスンは来週からね。土曜日の夜だけど、いいかな?」
「はい」
そう言われて別れた。レッスンの場所は後ほど連絡をくれるという話だった。
雪哉と会える日、一緒にラブホに行ったものの、どうも雪哉に元気がなかった。そして、最後にとうとう涙を流した。
「どうしたんだよ、何があった?」
両肩に手を置いて問い詰める俺。すると、雪哉は涙を手でぬぐって言った。
「これで、お別れしよう。僕が一緒にいたら、涼介の迷惑になるから」
「何言ってるんだよ。別れるなんて嫌だよ」
「でも、デビューするには恋人の存在は邪魔になるでしょ」
目に涙を一杯に溜めて、雪哉が訴える。
「そんなのバレないだろ?俺たちが一緒にいたって、友達だと思われるだけだよ」
「いや、違うよ。こうやって、この場所に出入りするのを見られたら、どれだけ悪い噂になるか」
「………」
うっかり黙ってしまった。確かに、ラブホに出入りする所を見られたり、写真を撮られてバラまかれたりすると、ちょっとまずいだろう。
「ま、確かにラブホはまずいけど。そうしたら場所を変えようよ。そうだ、一緒に住めばいいじゃん。俺が稼ぐようになったら、部屋を借りてもやっていけるよ」
「すぐに稼げるようになんて、ならないよ。それに、一緒に住んだら怪しいじゃん」
ポロポロッと雪哉の目から涙がこぼれた。うーん、そんなに難しい問題じゃない気がするのに、どうも具体的に策が思い浮かばない。
「とにかく、涼介が無事にデビューして、僕がちゃんと就職して独り暮らしするようになるまで、つき合うのは辞めよう。……すごく嫌だけど」
雪哉はそう言って、俺の胴体にしがみついて泣いた。俺は雪哉の頭を撫でながら、結局何も言えなかった。
「こちらもほとんど先行投資する訳だけど、うちのような小さい事務所だと、歌の先生を雇うにも先立つものがなくてね。それほど高額ではないから。デビューすればすぐに取り返せるよ」
早瀬に言われた。確かにうん十万もするなら断るが、登録料は2万円で、レッスン料は1ヶ月1万円と言われた。3ヶ月でデビュー出来るなら5万だ。それくらいならバイト代で何とかなる。
そういう訳で数日後、5万円を手渡して手続きは済んだ。
「レッスンは来週からね。土曜日の夜だけど、いいかな?」
「はい」
そう言われて別れた。レッスンの場所は後ほど連絡をくれるという話だった。
雪哉と会える日、一緒にラブホに行ったものの、どうも雪哉に元気がなかった。そして、最後にとうとう涙を流した。
「どうしたんだよ、何があった?」
両肩に手を置いて問い詰める俺。すると、雪哉は涙を手でぬぐって言った。
「これで、お別れしよう。僕が一緒にいたら、涼介の迷惑になるから」
「何言ってるんだよ。別れるなんて嫌だよ」
「でも、デビューするには恋人の存在は邪魔になるでしょ」
目に涙を一杯に溜めて、雪哉が訴える。
「そんなのバレないだろ?俺たちが一緒にいたって、友達だと思われるだけだよ」
「いや、違うよ。こうやって、この場所に出入りするのを見られたら、どれだけ悪い噂になるか」
「………」
うっかり黙ってしまった。確かに、ラブホに出入りする所を見られたり、写真を撮られてバラまかれたりすると、ちょっとまずいだろう。
「ま、確かにラブホはまずいけど。そうしたら場所を変えようよ。そうだ、一緒に住めばいいじゃん。俺が稼ぐようになったら、部屋を借りてもやっていけるよ」
「すぐに稼げるようになんて、ならないよ。それに、一緒に住んだら怪しいじゃん」
ポロポロッと雪哉の目から涙がこぼれた。うーん、そんなに難しい問題じゃない気がするのに、どうも具体的に策が思い浮かばない。
「とにかく、涼介が無事にデビューして、僕がちゃんと就職して独り暮らしするようになるまで、つき合うのは辞めよう。……すごく嫌だけど」
雪哉はそう言って、俺の胴体にしがみついて泣いた。俺は雪哉の頭を撫でながら、結局何も言えなかった。



