後悔し、懺悔した俺は、改めて雪哉に電話を掛けた。しかし、やっぱり出てくれなかった。雪哉に対して俺が持っていたイメージと、本当の雪哉とはちょっと違っていたのかもしれない。あいつの性格を見誤っていたかもしれない。
 何だかんだ1週間が過ぎ、またスキー部のトレーニングの日がやってきた。この1週間、何度か雪哉に電話を掛けたが、一向に出てくれないし、メッセージにも返事をくれなかった。
 俺がスキー部の集合場所に行くと、みんな既に来ていた。雪哉もいた。どんな顔をして会えばいいのやら、と躊躇いながら近づいていくと、雪哉も俺が来た事に気がついた。そしてあろう事か、ササッと牧谷の横へ移動して座ったのだ。しかも、牧谷と腕を組むようにして、
「マッキー、今日暇?」
と、俺に聞こえるように大きい声で言ったのだ。周りにいた鷲尾や井村もぎょっとして雪哉と牧谷を見た。
「え、今日?うん、暇だけど」
牧谷が少し狼狽えて答える。そりゃそうだよな、憧れのユッキーに腕を取られて話しかけられたのだから。
「じゃあさ、ご飯食べに行こっか?」
雪哉はそう言って、俺の方をこれ見よがしに見る。なんだー?俺に何か言って欲しいのか?うーん、ここで嫉妬して、俺と行こうなどと言ったら負けな気がする。
「あーあ、今日暇だなぁ。誰か一緒に飲みに行ってくれないかなー」
つい、俺も大きい声で言いながら伸びをしたりして。チラッと雪哉を見ると、ちょっと悔しそうに唇を引き結んでいる。しめしめ。すると、
「なーに?三木くん暇なのー?私も暇だから、一緒に行ってあげるわよ」
と、スキー部外の女子から声が掛かった。
「え?」
驚いてそちらを見ると、確かにちょっと顔見知りの女だった。俺がどうしようかと思っていると、
「はいはーい!私も暇!三木先輩、私と一緒に行きましょうよー」
今度は知らない女も寄ってきた。そして、俄にそこら辺がザワザワし始めた。
「やばい」
俺、まずい事を言ったかも。ほら、雪哉がこれを止めてくれないと!そう思って、雪哉の方を振り返ると、ものすごく悔しそうな顔をしてこちらを見ているが、相変わらず牧谷の腕を掴んでいる。どうする雪哉、お前はどうする?俺はどうする?
「ねえ、そしたらさ、ミッキーも一緒に行こうよ。俺たちと」
そこへ、牧谷がたまらず声を発した。とりあえずナイス助け船だ。女どもは断って、牧谷と雪哉と俺の3人でご飯を食べに行く事になった。
 トレーニングが終わり、3人で近くのファミレスに入った。雪哉はササッと牧谷の隣に座る。そして、俺の事をチラ見するのだ。あーむかつく。俺は2人の前にどっかりと座った。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくる」
牧谷はピューっと逃げた。あれ、なんで逃げるんだよ。2人で置いて行かれたら気まずいじゃないか。俺と雪哉は目を見交わしたが、とにかくそれぞれメニューを手に取った。俺は沈黙に耐えられず、何か言わずにはいられなくなった。
「なんだよ、あれ。なんで牧谷を巻き込んでるんだよ」
メニューに目を落しつつ、言いたい事を言ってみた。
「僕に幻滅したんだろ?嫌いになったんだろ?だったら、僕が誰と何しようがどうでもいいじゃないか」
同じくメニューに目を走らせながら、雪哉が言う。完全に拗ねているな、これは。
「いや、だからそれは……」
俺が言いかけると、牧谷が戻ってきた。この話は一旦打ち切り、注文をした。
 3人では、当たり障りのない話をしつつ飯を食う。雪哉がドリンクバーの飲み物を取りに行った時、俺は牧谷にふと聞いてみた。
「そういえば、牧谷が雪哉に貸してた本って何?」
「ああ、法律の本だよ」
牧谷は即答した。ふむ、牧谷は法学部だもんな。雪哉がなぜそれを借りたのかは知らんが、とにかく雪哉の言い訳は本当の事だったと認めよう。
「なんで知ってるの?ユッキーが俺に本を借りてた事」
他意なく、牧谷が聞いてきた。
「え?えーと、この間ほら、その本を返した時の事をさ、ちょっと井村に聞いたから」
また、バカ正直な俺が言うと、
「ああ、あの時ね。ユッキーが泣いてると思って、慌てて行ったんだよな」
牧谷が言いながらちょっと笑う。
「そ、それで?雪哉は泣いていたのか?」
俺は前のめりに聞いたのだが、ちょうどそこへ雪哉が戻ってきてしまい、牧谷はもうその質問には答えてくれなかった。