東京にあるS大学のシーズンスポーツサークルでは、毎年夏は海、冬はスキーに出かける。春や秋にもいろいろなスポーツをやるのだが、泊まりがけで出かけるのは夏と冬だけだ。
大学2年の夏、その当時彼女だった子に誘われてこのサークルに入会した。だが別れてしまったので彼女は退会した。俺はそのまま所属していた。腐れ縁の幼なじみ、篠崎もいたし、時々体を動かすのも悪くなかったから。
そして冬の長期休みがやってきた。一応春休みか。1月下旬に試験があって、後はもう3月末までずっと休み。2月の初頭に我らシーズンスポーツサークルは、スキー合宿へ出かけた。
「うわー、すっげえ急だなぁ」
リフトを降り、少し滑ったところで仲間を待つ。しかし、そこから斜面を下りるのが、どうやらあまりに過酷な感じ。
「誰だよ、上級者コースが大したこと事ないって言ったのは」
「やばくない?私無理かもー」
初心者を除き、中級者以上のメンバーがリフトに乗ってここまでやってきたのだが、特別スキーが得意な人もいない状況だった。平日だからスキー場全体が空いているのだが、上級者コースは特にガランとしている。
「どうする?どうにか滑る?」
「えー、どうする?」
情けない声を出すメンバーたち。完全にビビっていやがる。
「大回りすれば大丈夫だよ」
俺が言うと、
「大回りって何?どういうこと?」
と聞かれる。
「真横に近い感じにずーっとあっちまで行って、またこっちにがーっと行って」
ジェスチャー込みで伝える。
「ああ、なるほど」
「でも怖いよー」
なかなか進まない。
「そういえばさ、さっきうちの大学の連中がいたぞ」
篠崎がふと思い出した風に言った。
「うそ、偶然が過ぎないか?知ってる人だったの?誰?」
「うちの大学のスキー部の連中だよ。俺は鷲尾ってやつと友達でさ」
サークルではなく部となると、ちゃんとスキーをやっているやつらだ。
「スキー部か。そりゃ、関東周辺のスキー場に現れても不思議はないわな」
俺はそう言うと、もうこれ以上待ちきれず、ストックを使って前へ進んだ。俺も大した実力ではないが、転びながらでも何とか下りられる自信はある。こんな所に突っ立っていたってしょうがない。
「あ、三木行くのか?俺も行く!」
篠崎が着いてきた。俺はボーゲンにして急な斜面を滑り出した。しかし大回りするので時間がかかる。それに、疲れる。上手いやつはあっという間に滑り降りるのだろうが、俺は疲れてコースの端っこで止まった。そして、仲間が来るかと思って後ろを振り返った。
すると―。まぶしい光でちょっと目がくらんだ。斜面の上から、雪しぶきを上げてシュッシュッといい音を立てながら、1人のスキーヤーが近づいて来た。俺みたいに大回りせず、短いスパンで折れ曲がり、あっという間に下りる。
「うわ、かっこいい……」
俺は思わず声に出した。そのスキーヤーをつい目で追う。牛みたいな白地に黒ぶちの模様のあるウエアーを着て、赤い帽子に赤と黒のゴーグルを付けたスキーヤー。
ずっと目で追っていたけれど、とうとう見えなくなった。篠崎やその他メンバーがちらほらと俺に追いついてきた。
「涼介、待っていてくれたのか。いやー、しんどいなここ」
篠崎が言う。
「ああ」
「どうした?心ここにあらずって感じだぞ」
篠崎が笑って言う。
「今、すげえ上手いやつが通った」
俺が言うと、
「見た見た!すげえな。プロじゃないか?もしくは地元民とか」
「……そうだな」
まだ休憩している篠崎を置いて、俺はまた滑り出した。さっきよりちょっと勇気を出して斜めに進む。スキーはイメトレが大事だ。上手いスキーヤーを見た後は、何となく自分もあんな風に滑れるような気がして体が勝手に真似をする。……が、やっぱり転んだ。ゴロゴロと転がって、やっと止まった。やれやれ。
大学2年の夏、その当時彼女だった子に誘われてこのサークルに入会した。だが別れてしまったので彼女は退会した。俺はそのまま所属していた。腐れ縁の幼なじみ、篠崎もいたし、時々体を動かすのも悪くなかったから。
そして冬の長期休みがやってきた。一応春休みか。1月下旬に試験があって、後はもう3月末までずっと休み。2月の初頭に我らシーズンスポーツサークルは、スキー合宿へ出かけた。
「うわー、すっげえ急だなぁ」
リフトを降り、少し滑ったところで仲間を待つ。しかし、そこから斜面を下りるのが、どうやらあまりに過酷な感じ。
「誰だよ、上級者コースが大したこと事ないって言ったのは」
「やばくない?私無理かもー」
初心者を除き、中級者以上のメンバーがリフトに乗ってここまでやってきたのだが、特別スキーが得意な人もいない状況だった。平日だからスキー場全体が空いているのだが、上級者コースは特にガランとしている。
「どうする?どうにか滑る?」
「えー、どうする?」
情けない声を出すメンバーたち。完全にビビっていやがる。
「大回りすれば大丈夫だよ」
俺が言うと、
「大回りって何?どういうこと?」
と聞かれる。
「真横に近い感じにずーっとあっちまで行って、またこっちにがーっと行って」
ジェスチャー込みで伝える。
「ああ、なるほど」
「でも怖いよー」
なかなか進まない。
「そういえばさ、さっきうちの大学の連中がいたぞ」
篠崎がふと思い出した風に言った。
「うそ、偶然が過ぎないか?知ってる人だったの?誰?」
「うちの大学のスキー部の連中だよ。俺は鷲尾ってやつと友達でさ」
サークルではなく部となると、ちゃんとスキーをやっているやつらだ。
「スキー部か。そりゃ、関東周辺のスキー場に現れても不思議はないわな」
俺はそう言うと、もうこれ以上待ちきれず、ストックを使って前へ進んだ。俺も大した実力ではないが、転びながらでも何とか下りられる自信はある。こんな所に突っ立っていたってしょうがない。
「あ、三木行くのか?俺も行く!」
篠崎が着いてきた。俺はボーゲンにして急な斜面を滑り出した。しかし大回りするので時間がかかる。それに、疲れる。上手いやつはあっという間に滑り降りるのだろうが、俺は疲れてコースの端っこで止まった。そして、仲間が来るかと思って後ろを振り返った。
すると―。まぶしい光でちょっと目がくらんだ。斜面の上から、雪しぶきを上げてシュッシュッといい音を立てながら、1人のスキーヤーが近づいて来た。俺みたいに大回りせず、短いスパンで折れ曲がり、あっという間に下りる。
「うわ、かっこいい……」
俺は思わず声に出した。そのスキーヤーをつい目で追う。牛みたいな白地に黒ぶちの模様のあるウエアーを着て、赤い帽子に赤と黒のゴーグルを付けたスキーヤー。
ずっと目で追っていたけれど、とうとう見えなくなった。篠崎やその他メンバーがちらほらと俺に追いついてきた。
「涼介、待っていてくれたのか。いやー、しんどいなここ」
篠崎が言う。
「ああ」
「どうした?心ここにあらずって感じだぞ」
篠崎が笑って言う。
「今、すげえ上手いやつが通った」
俺が言うと、
「見た見た!すげえな。プロじゃないか?もしくは地元民とか」
「……そうだな」
まだ休憩している篠崎を置いて、俺はまた滑り出した。さっきよりちょっと勇気を出して斜めに進む。スキーはイメトレが大事だ。上手いスキーヤーを見た後は、何となく自分もあんな風に滑れるような気がして体が勝手に真似をする。……が、やっぱり転んだ。ゴロゴロと転がって、やっと止まった。やれやれ。



