梨花とは無事に別れる事が出来た。梨花から会おうという連絡が来ても頑なに断り続け、とうとう梨花の方が諦めたのだ。
俺が梨花と別れたという噂は、どうやら学内に広まっているらしい。そして今までと同様、知ってる子知らない子、色んな女子がやたらと俺に会いに来る。
「三木涼介さん、私とつき合ってください!」
通りすがりにいきなりそう言ってプレゼントを渡されたり、
「三木くん今フリーなんでしょ?今度は私とつき合おうよ!」
と腕を捕まれたり。
いつも早い者勝ちで「彼女」にしていたから、こんな風に大勢から言われる事はなかった。だが、今の俺は以前とは違う。
「ごめん、君とはつき合えないんだ」
そう言って断ると、
「えー!なんでー!」
大抵キレられる。だが俺の知った事ではない。俺が誰とつき合おうが、俺の勝手だ。
「聞いたぜー、涼介。お前今、彼女いないんだって?彼女途切れた事なかったのに、なんと2ヶ月もフリーだなんて。やっぱりスキー部にいい人がいるのか?」
同じ授業を取る事の多い、腐れ縁が続く篠崎。新学期に会って早々これを言われた。
「何それ」
俺が素っ気なく言うと、
「噂になってるぞ。お前がスキー部の女子に惚れて、いきなりスキー部に入ったって」
篠崎が言う。そんな話になっているのか。困ったな。スキー部の女子は少ないのに、そんな噂が立ったらかなり迷惑をかけているのではないだろうか。
「なあ鷲尾、お前スキー部だよな。涼介の好きな人って誰なんだ?知ってるんだろ?」
篠崎が、すぐ前に座っている人物の肩をポンと叩いてそう言った。その人物が振り返った。
「あ、ワッシーじゃん」
俺は驚いて声を上げた。
「おぉ、ミッキー!久しぶりだね!」
鷲尾も驚いた様子でそう言った。俺らはずっと近くにいたのだろうが、知り合いになり損ねていたらしい。スキー部に入った事で、やっとお互いを認識したのだ。
「鷲尾、どうなの?涼介の好きな人、知ってるんだろ?」
篠崎はしつこく聞く。
「好きな人?いや、知らないけど」
鷲尾はそう言った。
「そうなのか?でも、心当たりくらいはあるんだろ?」
篠崎、しつこい。鷲尾は俺をじっと見た。その様子を見て篠崎が、
「あ、やっぱり心当たりあるんだな?誰?何年生の人?」
と迫る。
「心当たりは、あるにはあるけど」
おいおい、鷲尾。
「誰、誰?」
篠崎が更に迫るが、
「多分俺と同じ人だから、言わない」
「マジ?マジかあ。そんなにモテる人なのか。ますます興味持っちゃうなー。俺もスキー部に入ろっかなー」
頼むから辞めてくれ、篠崎。だが、鷲尾はやっぱり心当たりありか。そして、それはバッチリ正解だよ。
「そうだミッキー、今日部活あるけど行く?」
鷲尾は俺にそう言った。
「え、うそ!スキー場行くの?」
俺はびっくり。
「何言ってるんだよ、そんなわけ無いだろ。階段でトレーニングだよ。週に一度トレーニングがあるんだ。そろそろLINEに集合時間が入ると思うよ」
「そ、そうか。びっくりした。トレーニングね。うん、行くよ」
とにかく雪哉に会えるのは嬉しい。
校舎の1階、階段近くの廊下で集合したスキー部。きっといつもは少人数でひっそりと行っていたのであろう。なのに、何だか今日はギャラリーがざわついている。それぞれジャージ姿などで集合した俺たちを、普通の私服を着た人達、主に女子が遠巻きに見ていた。
「なんか、やりにくいな」
部長の山縣さんが言った。山縣さんは4年生で、そろそろ部長を引退するらしい。次の部長をどうするか、夏休みには決めるそうだ。俺たち3年生の中で。
俺らは準備体操をし、階段を1階から5階まで10往復走った。スピードはゆっくりだが、階段なので相当きつい。因みに女子は5往復だった。雪哉はいたけれど、俺の事はやっぱり避けていて、近づく事が出来なかった。
女子が先に終えて1階で休んでいるのを、俺ら男子は横目で見ながらまた階段を上がって行くわけだが、何だかギャラリーの女子たちがスキー部の女子にズリズリと近寄っているように感じた。気のせいかと思ったが、俺が10往復して戻ってきた時には、そのスキー部内外の女子が混じり合っていた。ちょっと興奮気味な声も聞こえる。
「あれ、どうしたの?」
先に到着していた井村に聞いてみた。すると、
「君の事を話していたみたいだよ」
と言われた。何だって?
俺が廊下に座りこむと、スキー部の女子が俺の元へやってきた。
「三木くん、ちょっといい?」
威圧的な声。
「はい?」
座ったまま4年生の女子の先輩を見上げると、
「迷惑なんだけど。私が変に疑われているみたいで」
と言われた。
「は?何ですか?」
「三木君を取るなとか?ハッキリしろとか?何だか訳わかんない事言われるのよ。あれでしょ、三木君の好きな人がスキー部にいるという噂が流れていて、つまり私たちの中にいると思われてるんだよね?でも、どう考えても違うよね?全然そんな素振り見せないし。三木君、ちゃんとハッキリ言ってやってよね。好きな人はスキー部の女子じゃないって」
ごもっとも。
「はい。ご迷惑をおかけして、すみません」
俺は小さくなって頭を下げた。
「頼むわよ」
先輩はそう言って俺の元を去った。何のしっぺ返しなのか。女を甘く見ていたせいなのだろうか。侮っていたからだろうか。
「しかし、どうやって……」
言ってやってと言われてもね。聞かれれば違うと言えるけれど。ああ、でもスキー部に好きな人がいるのかと聞かれたらノーとは言えないぞ。スキー部の女子かと聞かれたら違うと言えるけれど。
俺が梨花と別れたという噂は、どうやら学内に広まっているらしい。そして今までと同様、知ってる子知らない子、色んな女子がやたらと俺に会いに来る。
「三木涼介さん、私とつき合ってください!」
通りすがりにいきなりそう言ってプレゼントを渡されたり、
「三木くん今フリーなんでしょ?今度は私とつき合おうよ!」
と腕を捕まれたり。
いつも早い者勝ちで「彼女」にしていたから、こんな風に大勢から言われる事はなかった。だが、今の俺は以前とは違う。
「ごめん、君とはつき合えないんだ」
そう言って断ると、
「えー!なんでー!」
大抵キレられる。だが俺の知った事ではない。俺が誰とつき合おうが、俺の勝手だ。
「聞いたぜー、涼介。お前今、彼女いないんだって?彼女途切れた事なかったのに、なんと2ヶ月もフリーだなんて。やっぱりスキー部にいい人がいるのか?」
同じ授業を取る事の多い、腐れ縁が続く篠崎。新学期に会って早々これを言われた。
「何それ」
俺が素っ気なく言うと、
「噂になってるぞ。お前がスキー部の女子に惚れて、いきなりスキー部に入ったって」
篠崎が言う。そんな話になっているのか。困ったな。スキー部の女子は少ないのに、そんな噂が立ったらかなり迷惑をかけているのではないだろうか。
「なあ鷲尾、お前スキー部だよな。涼介の好きな人って誰なんだ?知ってるんだろ?」
篠崎が、すぐ前に座っている人物の肩をポンと叩いてそう言った。その人物が振り返った。
「あ、ワッシーじゃん」
俺は驚いて声を上げた。
「おぉ、ミッキー!久しぶりだね!」
鷲尾も驚いた様子でそう言った。俺らはずっと近くにいたのだろうが、知り合いになり損ねていたらしい。スキー部に入った事で、やっとお互いを認識したのだ。
「鷲尾、どうなの?涼介の好きな人、知ってるんだろ?」
篠崎はしつこく聞く。
「好きな人?いや、知らないけど」
鷲尾はそう言った。
「そうなのか?でも、心当たりくらいはあるんだろ?」
篠崎、しつこい。鷲尾は俺をじっと見た。その様子を見て篠崎が、
「あ、やっぱり心当たりあるんだな?誰?何年生の人?」
と迫る。
「心当たりは、あるにはあるけど」
おいおい、鷲尾。
「誰、誰?」
篠崎が更に迫るが、
「多分俺と同じ人だから、言わない」
「マジ?マジかあ。そんなにモテる人なのか。ますます興味持っちゃうなー。俺もスキー部に入ろっかなー」
頼むから辞めてくれ、篠崎。だが、鷲尾はやっぱり心当たりありか。そして、それはバッチリ正解だよ。
「そうだミッキー、今日部活あるけど行く?」
鷲尾は俺にそう言った。
「え、うそ!スキー場行くの?」
俺はびっくり。
「何言ってるんだよ、そんなわけ無いだろ。階段でトレーニングだよ。週に一度トレーニングがあるんだ。そろそろLINEに集合時間が入ると思うよ」
「そ、そうか。びっくりした。トレーニングね。うん、行くよ」
とにかく雪哉に会えるのは嬉しい。
校舎の1階、階段近くの廊下で集合したスキー部。きっといつもは少人数でひっそりと行っていたのであろう。なのに、何だか今日はギャラリーがざわついている。それぞれジャージ姿などで集合した俺たちを、普通の私服を着た人達、主に女子が遠巻きに見ていた。
「なんか、やりにくいな」
部長の山縣さんが言った。山縣さんは4年生で、そろそろ部長を引退するらしい。次の部長をどうするか、夏休みには決めるそうだ。俺たち3年生の中で。
俺らは準備体操をし、階段を1階から5階まで10往復走った。スピードはゆっくりだが、階段なので相当きつい。因みに女子は5往復だった。雪哉はいたけれど、俺の事はやっぱり避けていて、近づく事が出来なかった。
女子が先に終えて1階で休んでいるのを、俺ら男子は横目で見ながらまた階段を上がって行くわけだが、何だかギャラリーの女子たちがスキー部の女子にズリズリと近寄っているように感じた。気のせいかと思ったが、俺が10往復して戻ってきた時には、そのスキー部内外の女子が混じり合っていた。ちょっと興奮気味な声も聞こえる。
「あれ、どうしたの?」
先に到着していた井村に聞いてみた。すると、
「君の事を話していたみたいだよ」
と言われた。何だって?
俺が廊下に座りこむと、スキー部の女子が俺の元へやってきた。
「三木くん、ちょっといい?」
威圧的な声。
「はい?」
座ったまま4年生の女子の先輩を見上げると、
「迷惑なんだけど。私が変に疑われているみたいで」
と言われた。
「は?何ですか?」
「三木君を取るなとか?ハッキリしろとか?何だか訳わかんない事言われるのよ。あれでしょ、三木君の好きな人がスキー部にいるという噂が流れていて、つまり私たちの中にいると思われてるんだよね?でも、どう考えても違うよね?全然そんな素振り見せないし。三木君、ちゃんとハッキリ言ってやってよね。好きな人はスキー部の女子じゃないって」
ごもっとも。
「はい。ご迷惑をおかけして、すみません」
俺は小さくなって頭を下げた。
「頼むわよ」
先輩はそう言って俺の元を去った。何のしっぺ返しなのか。女を甘く見ていたせいなのだろうか。侮っていたからだろうか。
「しかし、どうやって……」
言ってやってと言われてもね。聞かれれば違うと言えるけれど。ああ、でもスキー部に好きな人がいるのかと聞かれたらノーとは言えないぞ。スキー部の女子かと聞かれたら違うと言えるけれど。



