人の峠の裏には

春菜は、静江に問い詰めた。

「佐久間さんは、“本音を言った”から消されたんですね?」

静江は笑った。

「いけませんよ、編集者さん。そんな言葉、ここでは“大声”にあたります」

「……“本音”が大声?」

「そう。“空気”の音よりも大きなもの。それは、ここの人間には暴力なんです」

その笑顔のまま、静江はそっと席を立った。

“本音を持った者がいなくなる”
それがこの村の掟だった。