人の峠の裏には

「“いい人”の条件ですか?」

水原透は、春菜の問いに肩をすくめた。

「簡単ですよ。“誰の感情も波立たせないこと”」

村の“平穏”は、感情の起伏を排除することで保たれていた。

怒らない。
泣かない。
嫉妬しない。
誰かと距離を詰めすぎない。

「本音は、“この村の毒”なんです。だから皆、仮面をかぶってる。
それでもね、本音を我慢できなかった人がいた。佐久間さんも、そのひとりだった」