前日あんな事があったからか、眠れなかった.....なんてことは無い。
むしろ、ぐっすり眠った気がするくらいだ。
毎朝のように、家の前まで聖臣が迎えに来てくれて、一緒に登校する。
変わらない朝、変わらない笑顔、変わらない午前中。
ただ───聖臣が彼女と付き合い始めてから、昼飯は別々になる事が多くなった。
「今日は彼女たちに取られちゃったんだ。」
「付き合ったら、いつもの事だ。」
1人で食べようとしていた俺を、佐々が見つけギーっと椅子を引いて向かいに座る。
うちの学校は学食か弁当。
俺は学食派だから、遠目に聖臣が彼女とその友達たちと楽しそうに食べてるのをよく見る。
今も斜め左の方、少し距離はあるけど笑ってる横顔はすぐ分かる。
「付き合ったら、毎日あんな感じ?」
「昼に彼女が迎えに来て、弁当作ってくるやつもいれば、今みたいに学食で惚気けながら食ってるのも多いな。」
今日の昼はナポリタン。
ここのは美味しくて、日替わりで出ると必ず頼む。
ただ....高確率でケチャップが跳ねるから、服を汚さず食べるのが難点だ。
「そんで?寂しく1人飯か笑」
「今は佐々もいるし、今日はナポリタンだからな、寂しくはない。」
「別に決まって昼食うやつもいないし、別れるまで一緒に食うか?1人より楽しいだろ。」
そう言って、焼きそばパンをほうばる佐々。
.....人の食ってるやつって、なんでこんな美味しそうに見えるんだろう。
そんな事を考えていたら────ピンっとケチャップが跳ねた。
運良く服じゃなく、ほっぺに。
「ほら、ついてる。」
佐々が人さし指でそれを拭う。
「やめろよ、余計伸びるだろ。」
そう言いながら、紙ナプキンで残りを拭った。
「.....あ、でも浅田、気にするんじゃね?俺と昼飯食うの。」
「は?なんでだよ。」
「いやぁお前ら常に一緒だろ?浅田が彼女居る時以外───」
尻すぼみになる声。
ナポリタンを食べながらだったから、佐々の表情は見えない。
「なんだよ、最後まで言えよ。」
「いや.....なんであれでお前ら付き合ってないの?」
「....は?」
「俺が浅田の方見たら、すげぇ牽制された笑」
「聖臣に何したんだよ。あいつ温厚の権化で、怒るとこ見ないぞ。」
「100%悠の事だろ。」
「俺の事であいつが怒るかよ。怒る必要ねぇだろ。」
「相変わらネガティブって言うか.....鈍感って言うか.....」
「なんだと、こら。」
───怒る理由なんて分からない。
多分、佐々が何かやらかしただけだろう。
でも、あの聖臣が表に出すほどの苛立ちって.......。
「昨日持って帰ったお土産、どうだった?」
「チョコもクッキーも美味しかった。ただ、甘ったるくてそんな食えなかったけどな。」
あ──聖臣に渡し忘れた。
いや、昨日のあれじゃ渡せる状況じゃなかった。
「浅田には?」
「それが、聖臣と彼女が帰ってくるとこに鉢合わせて、渡せなかったんだ。」
「熱々だな笑」
「しかも、家の前でキスしてたし....余計無理だった。」
食器と紙ナプキンをまとめて、お盆ごと返却口へ。
佐々も立ち上がる。
「浅田は手も早いんだな......って、それ見ても今日一緒に登校してきたんだろ?なんとも思わないわけ?」
「そりゃ、いい気はしないけど......俺の気持ちと聖臣の行動は別だ。」
返却後、スタスタと教室に向かう俺。
「別って....お前の気持ち一体どこにあんだよ。」
「?彼女を好きなあいつと、俺の気持ちを一緒にするわけないだろ?」
────一緒にしていいはずが無い。
異性と同性じゃ、話が違う。
俺に好かれてるなんて知ったら、あいつは....きっと、気持ち悪がる。
少し前を歩いていた佐々が、ふと振り返る。
「今日も帰り1人なら、一緒に帰るか?彼女もいるけど。」
「いや、今日は朝から一緒に帰ろうって言われてる。」
「お、やったじゃん。じゃ、また放ったらかされた時な。」
佐々は自分のクラスへ。
......何だかんだ、面倒見のいい奴だ。
彼女が同じ学校だったら、今頃俺なんて放置されてただろうな。
クラスで浮いてるわけじゃない。
人見知りはあるけど、会話できないほどじゃない。
でも───聖臣以上に仲のいい奴はいない。
佐々はまぁ、例外。
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先に教室に戻り、次の教科の準備をしながら聖臣を待つ。
....でも、チャイムが鳴っても戻ってこなかった。
姿を見せたのは、5時間目の終わりのチャイムのあと。
軽く聞いたが、返答からして彼女の事だろう。
それ以上は、聞きたくなかった。
会話もないまま、6時間目が終わった。
