俺にはずっと片想いしてる奴がいる。
幼なじみで同性の───聖臣(きよおみ)
勉強も運動も上の上、高身長で尚且つ学校イチのイケメンモテ男。
そんな奴に、俺は9年も片想いをしてる。
いや、正確には今年高校生になって10年目になろうとしている。

「....我ながら気持ち悪い。」

聖臣とは幼稚園から一緒で、気付いたら好きになっていた。
だから、もしかしたら9年以上前から好きだったのかもしれない。

高校入学したからといって俺達の関係は変わらない。
変わった事といえば、去年よりも聖臣に告白する女子が増えた事くらいだ。
席替えも終わり、俺たちは廊下側。
右を向けば窓がある。
そして俺の後ろの席が聖臣。正直、それだけで嬉しい。
……はずなのに────

ガララと廊下側の窓が開く音。
視線を上げると女子と目が一瞬合い、すぐ合わなくなる。

「あ、浅田くん!」

......お目当ては俺じゃない。
呼ばれた聖臣はニコニコと笑いながら廊下へ出ていく。
これが日常だ。
女子の話を聞き終えた聖臣は、必ず俺の所へ来てこう言う。
「ごめん、帰りちょっと下駄箱で待ってて。」
ここまでワンセット。

家が隣同士だから、帰りはいつも一緒に帰っている。
俺はこの時間がすごく...すごく幸せだ。

軽く返事をする。
謝る事なんかないのに、と毎回思う。
今日の子も、聖臣に好かれたくて可愛くしてきたってのが分かる。

​───────​───────​───────

ホームルームも終わり下駄箱へ向かうと───

「あれ、今日は浅田と一緒じゃないんだ。」
「ああ、今日は女の子が教室に迎えに来てた。」

下駄箱近くの壁にもたれて携帯いじっていたのは佐々(さっさ)
同級生だけど別クラスで、よく下駄箱で会うからなんとなく仲良くなった。
こうして見ると、中々のイケメンだ。
たぶんモテる。

「入学してまだそんなに日経ってないのにもう彼女か?」
「いや、この間告白された子とは別れたらしい。」
「はぁ?!まだ2週間も経ってないぞ?」
「昨日、フラれたって愚痴られた。」
「で、今日また告白されてんだろ?」

別れたらすぐ他の女の子が来る。
昨日の今日でどこからそんな情報が回ってるのか、不思議なくらいだ。

「悠は別に気にならないのか?」
「何が?」
「聖臣が告白されたり、女の子と付き合ったりする事。」

佐々には早々に俺の気持ちがバレて、隠すのも諦めた話してしまった。

「別に。告白も付き合うのも、なんとも思わないけど。」

だって付き合ったって、登下校は一緒だし、週末は泊まってゲームするし……。
変わるとしたら昼飯くらい。
むしろ、こんなに俺といていいのかと思うくらいだ。

「それでほんとに浅田の事好きなのかよ.....」

佐々のため息がよく分からない。

「聖臣の事は好きだけど、その気持ちが告白だったり彼女を作るのに邪魔はしてはいけないと思ってる。」
「は?」
「だから彼女作るのは自由だし、それで聖臣が幸せなら俺はそれでいい。」

そう、それでいいんだ。
聖臣が幸せなら、俺も幸せ。

「....拗らせてんなぁ。」
「なんか言ったか?」
「いーや?」

もう片想いが長すぎて、隣にいる以上の幸せは俺の自己満でしかない。
聖臣からしたら、可愛い彼女が隣にいる方が幸せに決まってる。

「なかなか連絡来ねーなぁ。」
「今日の女の子はかなり可愛かったからな。」
「浅田の好みって事か?」
「さあな。」

聖臣の好みなんて分からない。
彼女のタイプは毎回違うし、読めない。
読めないけど、必ずフラれて、次の日には新しい彼女がいる。

「俺も彼女待ってんだけど全然連絡ねーの、多分どっかで女子会してっからメールして今日は先帰るかなぁ....」
「じゃあ俺も帰るかな、聖臣待ってても来なさそうだし。」

一応、佐々と帰ることをメールしておく。
佐々と話しながら靴を取りだし、校門を出た。

「じゃあ今日俺ん家寄ってかない?姉ちゃん海外出張から帰ってきて、お土産が山ほどあるんだ。」
「佐々のお姉さん、どこ行ってたんだ?」
「仕事で海外。親戚にも配ったけど、全然減らねぇーの。」
「そんな家族のお土産、俺がもらっていいのか?」
「いいって、腐らすよりマシだし。」

そうこうしているうちに、もう家の前。
お土産だけもらって帰るつもりが、すっかり部屋に上がってしまった。

「どれがいい?」

目の前に広げられた大量のお土産。
見た事ないものばかりで、何がどんなお菓子なのかさっぱり分からない。

「これはチョコ...こっちもチョコ菓子、こっちはクッキー....」

ラベルを確認しながら説明してくれるが、その国の言語で書かれているらしい。
頭良すぎだろ...。

「そんなスラスラと読めるものなのか?」

お菓子よりそっちが気になって仕方がない。

「いや、簡単な単語は分かるけど、ほぼ姉ちゃんが付箋貼ってくれてるだけ。俺もトンチンカンだぞ笑」

ほらって見せられたラベルは、案の定意味不明な文字列だった。

「お姉さんがすごいな。」
「家族の中じゃダントツで頭いいんじゃねぇーかな。」

佐々はガサゴソと他の種類のお土産を探してくれている。

「最初のチョコでいいよ。」
「包装の絵で判断してもらおうと思って....これ、飴かな。」
「1個でいい、そんなにもらっても困る。」
「浅田にもやればいーじゃん。悠の分と家族の分、浅田の分と家族の分で4箱!」
「...4箱な。」

俺のはチョコ、家族にはクッキー。
聖臣はブラウニー好きだから、チョコブラウニーと聖臣の家族の所は同じクッキー。

ん、と決めた4箱を手渡した。
素早く4箱入る紙袋に「これ浅田のとこと分ける時な。」って多めに紙袋を入れてくれた。

「こんな時間まで悪かったな。」
「いや、俺がお土産選びに時間かけたから。」

靴を履きながら、つま先を地面にトントンと打つ。

「今度は浅田も連れて来いよ。」
「そうする、また明日な。」

そう言い佐々の家を後にした。


────────────────────────


佐々の家が真反対だから、帰り道がいつもより長く感じる。
玄関に着いた時、前から見慣れた姿と、知らない姿が歩いてくるのが見えた。

.....危ない。
もう少しで鉢合わせる所だった。
聖臣が彼女に笑いかけている顔に、思わず目を奪われる。
楽しく話しているでも──────

「....っ。」

見なければ良かった。
やっぱり家に入ればよかった。
だって────
聖臣がキスしてる所なんて、見てて気持ちのいいものじゃない。


聖臣が誰と付き合おうと、何しようと、それで幸せならいいと思った。
....でも目の前で、俺の視界に入る所でされるのはどうしても耐えられなかった。