毎日を生きていくだけで辛かった小学5年。君は、私にとってのヒーローだった。
あまり喋らなくなった中学。私は、いつも遠くから君を見ていた。
また仲良くなれた高校2年。距離が縮まったと思っていた。
会わなくなった大学生。未だに、私は君を想っていた。

小さな頃、童話に登場するお姫様に憧れていた。継母から酷い扱いを受けたり、高い塔に閉じ込められたり、妬みから命を狙われたり。そんな厳しい境遇の中で、現れる王子様と恋に落ち、幸せを掴む。そんな逆転劇を痛快だと思っていたし、華やかなドレスを纏った彼女たちは私の目には輝いて見えた。いつか、私にもそんな相手が現れるのかな。そんな風な夢を描いていた。運命の恋という幻想に、浸っていた。

でも、現実は違った。上手くいかない事ばかりだった。嫉妬や恨み。そんなどす黒い人間の汚い感情に塗れたものを、人は恋と呼んだ。幼い頃に見た恋はただのフィクションで、物語の都合の良いように改変されたものだった。

それでも、私はあの頃の恋を信じたい。
どれだけ泥々になっていても、黒く塗りつぶされていてもその内側には私が憧れていた恋があると、信じたい。
それくらい、構わないよね。
叶わない恋だった。
一度は、諦めた恋だった。
でも、それでも諦めきれなかった。願い続けたかった。
そんな恋を、私が憧れていた恋だと言ってもいいよね。

そうでないと私は今度こそ、立ち直ることはできないだろう。

あれから卒業するまで、涼名くんからアプローチを受けた。彼は私がまだ聖を好いていても良い。そう言ってくれた。とても嬉しかった。でも、やはり君以外は、まだ考えられなかった。

性根が腐っていた私に、本物の恋を教えてくれた君へ。
心から、ありがとう。
そして。
ずっと、自信がなかった。でも私ももう二十歳。すっかり大人になりました。少しは、性格も良くなったと思う。
だから今なら、言えそうだよ。

「聖、
貴方が幸せなら、私も幸せです。

どうか、お元気で。」

桜の花びらが1枚、宙を舞う。ずっと嫌いだった。見たくもなかった。春が、大嫌いだった。

でも、今なら少しだけ、美しく思える気がした。




2025.3.31 fin 咲良碧