こんな世界で、私たちは恋を探す。

「…聖と望月さんが、付き合ったって。」
話がある。そう凉名くんに言われた時から嫌な予感はしていた。
あまり言わない方がいいのかもしれない。それでも、ちゃんと心葵ちゃんは知るべきだと思ったんだ。そう前置きをされたから、大方何の話かはわかっていた。
わかっては、いた。だけど、やっぱり悲しさはあった。

この恋に勝ち目はないと悟ってから8ヶ月。思ったより、二人の恋の成就までの道のりは長かった。その間にどうやって愛を育んだのかは知らないが、きっと二人は今、とても幸せで満たされているのだろう。でも私はまだ、それを心から祝福できる程成長できていない。
ごめんなさい、聖。
いつか、「おめでとう。」そう心から言える日が来るのだろうか。私は、そこまで“良い人”になれるだろうか。
「ねえ、心葵ちゃん。」
3月の河川敷。桜がまだ開花していないからか、人はあまりいなかった。春の風が、私と凉名くんの間を通り抜ける。
「ん?」
「今くらい泣いても、良いんだよ。」
ぼろぼろと、涙が止めどなく溢れ出て来た。
我慢、してたのに。
ああ、私はまだ。まだ、聖が好きだ。好きで、好きで、堪らないんだ。それを痛感して、余計に涙が出てくる。
「聖、ひじ…り…!」
堪えようとしても、嗚咽が出る。涙も鼻水も、止まってくれない。それらを拭うことすら、できなかった。
人目を憚らずあまりにも堂々と泣く私を、そっと凉名くんがそっと抱き寄せてくれた。小さな子をあやすみたいにゆっくりと頭を撫でてくれる彼は、私とは違う。優しい、人だ。
「なん、で…、なんで…。」
お門違い? その通りだ。とうに戦うことすら放棄した私が、今更彼への愛を語っても、泣いて後悔しても、あまりにも遅すぎた。それでも、この涙の制御は、不可能だった。

枯れる程涙が出るという言葉を聞いた事があった。でも、涙が枯れる事はない。そう、知った。ただただ泣き疲れるまで。自分の体力が許す限り、限界まで私は泣いはただ泣いた。


季節はもう、春だった。