そして、その日は、斎藤さんを母屋に泊めて、私はいつも通り御堂の角に布団を敷いて就寝した。
ただ、明け方なぜか早くに目が覚めてしまい、私はラインで共有された斎藤の夢日記の内容を一人スマホで読んでいた。
ある日を境にみるようになった悪夢
知らない日本家屋の中
診察室
広い和室
赤い水がはられた広い浴室のようなプール。
階段
砂嵐
落ちる夢
こわいゆめみたか
子供の声から老人の声に変わる
悪夢とストレスには関連性があるかもしれないが、このキーワードの悪夢をみせるような、彼のストレスが浮かんでこない。もう少しすれば就職活動もあるが、学生生活にも慣れているし、大学二年生はテスト期間を除けば、今は人付き合いも遊びも充実しているような時期じゃないだろうか。
学園祭で出会った頃、明朗快活で体育会系だった斎藤さんが、悪夢をみるようになったきっかけは、ただの趣味で始めた夢占いだった。見た夢の内容をネットで調べて、それをきっかけに運動をして、自分にいいことがあったから続けた。理由は、それだけ。
そして彼がみる悪夢は、あまり彼という性格の人間がみるような夢には思えない。もちろん勝手な印象だけど。
誰か違う人の夢を見ているようだった。それくらい、脈絡がなく、つぎはぎな夢だ。
「オープニング、お坊さん、ゲーム、家、病院、風呂……和室、赤い水、階段……か」
私は斎藤さんが言っていた、言葉を並べて口にしてみた。
場所に関していえば、生きていれば誰でも関わるような場所だった。病院には行くだろうし、和室にだって入るだろう。
これが一つのストーリーで、誰かの人生なんだとしたら、家の中という囲まれた世界で完結しているし、どの場所も暗すぎる。
この夢が人生を著した夢だったとしたら、あまりいい人生には思えなかった。
「落ちるばかりの、人生か。二十歳の大学生の見る夢か?」
私は、ふと、夢日記の最後の行が目に入った。
「……これ、十二段目で終わってるのか。階段の、十三段目……あ」
私は嫌な予感がして走って母屋に向かっていた。
斎藤さんは、お坊さんが怖いと言っていた。
――目を隠されたような。
――床が消えるんだよ。
私の予想が当たっていたのか、昨日、彼が寝ていた布団は綺麗に畳まれて斎藤さんが部屋から消えていた。
誰かが、彼を呼びに来たのかもしれない。
おわり


