アンドロイドのきみと二人、あの海で知ったこと



 俺たちは、手をつないで眠った。
 砂よけの堤防の下。自転車を二台並べて停めた横で。

 真夜中の海はやさしい波が寄せていて、それはまるで羊水のゆれる音のようで、だから俺たちは本当に生まれ直したんだ、きっと。




 そして迎えた世界の夜明け――――。
 
「おはよう」
「おはよ。なんか照れるね」

 恥ずかしげな愛海に、俺は意地になって平然としてみせた。でも内心テンパってるのがバレバレだったかも。



 重なっていた手をそのままにしておきたくてためらった。なんだか名残惜しい。
 明るくなると、砂のくっついた互いの指がよく見えた。最後にギュッと握ってから、ゆっくり離す。

 ――でもこれで終わりじゃない。だからだいじょうぶ。
 愛海の手なんか、また何度でも取ればいい。





 のどが渇いたし腹もへった俺たちは、実は天才だと思う。用意周到にペットボトルとパンを道中で買っておいたんだからな。

「あ、スポドリあたしにもちょうだい」
「ん。ほら」

 さんざん泣いた愛海は、たぶん水分も塩分も失っている。俺は飲みかけのペットボトルを渡してやった。

 ……でもさ、間接キスなんだけど。
 いいのか? 気にしないのか? なんか俺だけが意識してるみたいでくやしい。

「あー、染みる」
「おっさんか」
「……彼女がおっさんぽいの、嫌?」

 当然のように言われ、俺は顔をそらした。
 彼女。
 やめろよ。ニヤけるじゃないか。

「……おっさんは、ちょっとヤダ。愛海っぽいのはいいけど」
「まなみ」

 いつもの愛称マナミンじゃなく愛海と呼んでみたら、目をまるくされた。

「だって〈マナミン〉は、みんなが呼ぶやつだろ。俺は特別なの」
「……航平のくせに何カッコつけてんのよ」

 文句をつけるくせに、愛海はジワ、と泣きそうになる。

「うわ、なんで泣くんだ」
「バーカ、嬉しいからに決まってんでしょ!」



 のぼる朝日に輝く、愛海の泣き笑い。
 昨夜泣きすぎたせいでまぶたははれぼったいけど、すごくかわいいと俺は思った。


 命は海。
 それならば、ちゃんと愛海の中にも海はあるよ。
 涙なんか塩水なんだし、海みたいなものだろ?


 愛海から取り返したペットボトルを、俺はそのまま口につける。
 間接キスのスポドリは、カリウムとナトリウムの味がして――これもつまり海なのかな、と思った