「ごめん、コンビニ寄っていい?」
愛海が言い出したのは、二十三時を過ぎた頃だった。
ゆっくり走ってきたけど、もう海にだいぶ近づいたと思う。道路が平らになってきたことで、それがわかった。
「……なに、腹へった?」
「違うよ、トイレ」
「あ、はい」
男友だち相手にそれを言うのは、ちょっと嫌だったかもしれない。俺は失礼な質問を後悔した。でもそんな答えが返ってくるなんて知らないからさあ。
道の先にあらわれたコンビニの駐車場に自転車を停め、鍵をかける。
たぶんこの店の看板が見えたから寄り道を提案したんだろう。てことはずっと我慢してたのか……ってそういうこと想像すんなよ俺。ヘンタイか。
愛海はサクッと店のトイレを借りにいった。途中、通り過ぎた公園にだって公衆トイレぐらいあったはずだけど、夜中のそんなところ嫌だよな。女の子だし。怖いだろう。
――あれ。トイレ?
じゃあやっぱりアンドロイドではない、のか?
いやアンドロイドだからこそ、過剰な冷却水を排出しなきゃならないとかあるかもしれないし。
それに食べたものとかはどうなってるんだろう。そのまま動力に変換できるシステムだったらすごいんだけど……じゃなくて。
愛海は人間で、普通に胃腸で消化してるんだと仮定するのが自然だろ。
俺よ、しっかりしろ。
はい、アンドロイドである可能性低下。やっぱり0.01%!
店内にほかの客はいなかった。
レジの奥から出てきたおじさんの店員がチラリと俺のことを見る。
たぶん愛海と二人で入店したことはカメラに映っていただろう。夜中の若い男女二人連れとか、怪しまれるかな。恋人みたいに思われてるかもしれない。そんなんじゃないんだけどさ。
店員の視線を気にしながら、俺はおにぎりやサンドイッチを物色した。トイレを使わせてもらったのだから何か買い物をしなくちゃ。
「お待たせ。おべんと買うの?」
寄ってきた愛海にひょんと隣に並ばれて、なんだかドキッとした。
学校じゃそんなことなかったのに、いつもと違うこの状況が俺をおかしくする。
夜。
二人きりの逃避行。
知らない町。
「何か買わないと悪いだろ。どうせお腹すくはずだし」
「朝ごはん用だね……でも何時間か持ち歩くじゃない? 冷蔵品はいたみそう。パンにしとこうよ」
愛海はとても冷静な意見を言った。
テンパってるのは俺だけみたいな気がして、くやしくなった。
「あの、お客さん」
菓子パンと惣菜パンを二つずつ、レジに通してもらい清算したら店員さんに呼び止められた。中年の男の人。オーナーさんなのかな。
「はい?」
「いや、この時間だし、ずいぶん若いから……いちおうね、青少年保護条例ってものがあるんだけど」
「あ」
顔色を変えた俺たちは、商品をひっつかんで逃げ出した。
もう夜中だ。補導されてもおかしくない。
いそいで鍵を外し、自転車にまたがる。
店員さんは追いかけてこなかった。だけど俺たちは急き立てられる気持ちのままに道路へ飛び出す。そして海へ向かった。
こんなところで捕まるわけにいかないんだ。
せめて海までは行かなくちゃならない。
――どうして海なのかは、まだよくわかっていないけど。



