高二の夏休みを目前にした日、俺はクラスの女子に告白された。
といっても「好きです!」とかの甘いやつじゃない。そいつ自身の〈正体〉について、だ。
「あのね、実はあたしアンドロイドなんだ」
「……へ?」
引っ張りこまれたのは定番の呼び出しスポット、体育館裏だった。
うだる暑さ。くっきりと落ちた屋根の影。
そんな中、相田愛海はテヘ、と肩をすくめて笑う。
「ほんとは言っちゃダメなんだけど……消される前に、航平には伝えておくね」
消される。
ものすごく物騒な言葉と、ケロッとした愛海の笑顔がつり合わない。
シャシャシャとわめくセミがうるさかった。
困惑した俺は、蝉しぐれにかき消されそうになりながら声をしぼり出した。
「なに……言ってんだよマナミン」
「知ってんでしょ? うちの学校のうわさ」
知ってる。
そのうわさとは、各クラスにAI搭載アンドロイドがいる、というものだ。生徒のひとりとして学校側が配置しているのだと。トラブル監視とか内申調査のために。
「それのね、二年五組用のアンドロイドが、あたしなのですよ」
愛海はドヤ、と鼻の穴をふくらませた。
いや何言ってんの、おまえ。
俺はそれ、くだらないと思っていた。学校の怪談レベルだろ。
「あんな話、信じられるわけないよ」
だけど愛海は、そこで真剣な顔をする。
「――あたしいなくなるの。あたしの中に修正のきかないバグがあって」
「バグ?」
「そ。だから相田愛海は消える。その前に……瀬戸航平、きみにお別れを言おうかなって思ったんだ」
――そんな荒唐無稽な告白で、俺の夏休みは始まった。



