ある時、紬は友人に誘われて、初めてお泊まり会をした。

 時刻は22時を少し過ぎたところ。

 入念に化粧水と美容液を肌へと染み込ませ、髪を乾かすと、歯を磨き、友人宅の脱衣所を出る。

 ワンルームで暮らす友人は、脱衣所を出たすぐの部屋に布団を1組敷き、自身は、ベッドに腰掛けて、ビールを美味しそうに煽っていた。

 紬は、持参した青汁を友人宅の小さなキッチンで1杯作ると、コクコクとその場で飲み干す。

 飲み終わったグラスをすすぎ、流しの横にコトリと置くと、紬は、友人へと声をかける。

「お風呂ありがとう。もうそろそろ……」
「いえいえ。どういたしまして。そろそろ時間ねー」

 ほろ酔い加減の友人は、ベッドをポフポフと叩く。

「な、何?」

 友人の行動の意図が掴めず、少し身を固くして問い掛けると、友人は、一人楽しそうに、軽やかな声を出す。

「女子のお泊まり会といえば、やる事は1つよ。はい、ここ座って」

 そう言いながら、友人は、再びベッドをポフポフと叩く。

 しかたがないので、紬は、友人の隣へと腰を下ろす。

「やることって、何? 私は、そろそろ……」
「女子のお泊まり会でやること! それは即ち! 恋バナ大会です!!」

 友人は、手にしていた缶を高らかと掲げ、そう宣言した。

 しかし、そんな宣言をされたところで、紬には、話のネタなど何もない。なぜなら、異性とのお付き合いどころか、初恋すらまだ経験したことがなのだから。

 結局、紬は、友人の擦った揉んだの恋バナだけを聞かされる羽目になった。