三
水沼は旧友のあいつ――鹿野信吾とバーベキューを焼いていた。信吾は少し憂鬱そうで他の人ともほとんど話をしていない。彼は気になっていろいろ話かけてみた。本当は幼馴染だという良美ちゃんとのことをいろいろ訊きたかったのだが、何か訊きにくいところがあって、例の「サングラス&マスク男」の話などしていたが、まあ、それは他愛のない話で、最終的には互いをペンネームで呼び合い、次回作――共に暗礁に乗り上げている次回作の話をしんみりとしてみたりしたが、お互い少し嫌な気分になっただけだった。
一言で纏めれば、別の道――その言葉が二人の頭の中でグルグル回っていた、そういうことだ。
パーティーがお開きになり、水沼と鹿野とで、近藤社長を手伝って、後片付けをした。小間使いで残っているはずの「サングラス&マスク男」は当然のようにいなかったし、良美ちゃんも近藤と喧嘩をしたせいで、手伝ってはくれなかったが、まあ、男三人でもくもくと片付けるのも悪くはなかった。
そのまま、近藤は二階の寝室に引っ込み、水沼が一番手前の部屋、あいつがその次の部屋に引っ込んだ。その次の部屋はひっそりとしていたが、誰もいないのか? それとも「サングラス&マスク男」が休んでいるのか? そのどちらなのかはわからない、としか書けない。なぜなら、彼はその部屋を覗いて確かめたりしなかったのだから――。「サングラス&マスク男」の存在―非存在は、謂わば「シュレディンガーの猫」だった。
良美ちゃんは離れで一人で寝るとのことだった。彼女が離れに歩いて行くのは月明かりで見ている。赤い月に照らされて、ひょこひょこと移動していく頭が廊下の腰窓越しに見えていた。
