主治医による更なる覚書(読者のために)
 
 さて、やはり読者の混乱をある程度避けるために、この文章をここで挿入しておこう。ちなみに私はある患者の主治医であり、かつ、名前は■■である。
 ややこしいが、現実だけ記しておくと、要するに、私の手元には二つの手記――ミステリーの体をなしている、更に書けば現実にあった事件を基にミステリーとして書かれている――そういう二つの手記があり、それを奇数章と偶数章にして交互に示しているところである。
 
 補足してもう少し詳しく説明すると――
 
 奇数章
 語り手、視点は「水沼」。
 旧友「鹿野信吾」が時々「あいつ」と書かれる。
  
 偶数章
 語り手、視点は「私」。
 「私」は奇数章の鹿野信吾と類推される。
 「彼」は奇数章の語り手の「水沼」と類推される。
 つまり、偶数章だけでは「私」と「彼」の名前はわからない。奇数章があって初めて名前がわかるようになっている。
 これについて追って判明するのでここではこれ以上説明しない。   
 ただ、偶数章では、最初「彼女」と書かれていた近藤社長の婚約者が、階段での「いちりとせ」のあと、ようやく「良美」と明かされるのは少し興味深い。

 ついでに書くと「良美」という女性は「尾崎諒馬」のミステリー「思案せり我が暗号」「死者の微笑」に出てくるが、それと同一人物ではないようで、謂わばパラレルワールドであるのだろう。(今回のこれは、実際の事件とリンクしているので当然であるが)
  
 これが、どういう形で読者の目にふれるか? それはこれを書いている現時点ではまだわからないが、やはり、これはミステリーとして纏める方がよい気がしている。とはいえ、私は作者ではなく、ただ、今のところこうして読者のための覚書を挿入しているだけだ。
  
 とにかく手記は二つあり、双方ともテキストファイルの形で私の手元にある。未決の死刑囚が書いたものと私の患者が書いたものの二つだが、奇数章と偶数章、どちらがどっちなのか? は読んでいけば自ずとわかるだろう。
 
 さて、ということで、三章から物語は続いていく。