彼女の歌声は、ファンの間で天使の声と称されていた。

路上ライブから始まった彼女の音楽は、僕と付き合い始めた頃には、SNS総フォロワー数50万人を超え、駆け出しのアーティスト達からもこぞって注目される程になっていた。


彼女の活動は、闇夜に上がる打ち上げ花火のように勢いづいていた。


それでも彼女は時折、目を腫らして歌っていた。


「生きているだけでいい、なんて綺麗事だよ。だって現実は押し寄せてくるんだもん。けど、私は本気でいきているだけでいいって証明したくて、歌ってる」


いつだったか、路上ライブで彼女はそう言っていた。


彼女は、同志に向けて歌っていたんだと思う。


生きることを辛いと泣いたことがある人に、彼女の歌声は、強く響くのだろう。


彼女は路上ライブで、お金を受け取ることを嫌った。


お金がほしくてやってるんじゃない、と言った。


ただ私の叫びを聞いてほしくてやってるんだ、と。


だから、お金を払うとしたら、私の方かもしれないねとも言っていた。

彼女は、ありったけの自分で歌った。

彼女は、涙を流しながら歌った。


それが、彼女の想いだった。