前向きは、意思だと思う。
彼女について、そう多くは語らない。
僕の恋人、いや正確には恋人だった――三國 陽花はひとよりも苦手なことが多い人間だった。
真夜中に電話がかかってきて、彼女の家まで行ったら「片付けが終わらないから、夏波くん助けて」と一人で泣いていた。
彼女は片付けができなかった。
初デートの日、楽しみでいつもより早く目が覚めた僕は集合時間より早くについたけれど、結局その日、彼女が姿を現したのは、お昼のバラエティ番組が始まる頃だった。
彼女は時間の管理ができなかった。
「ダメだよね、ほんと。こんなんだから……ごめん」
そう言って、彼女は僕によく謝った。
うん、たぶん謝る先は僕じゃないと思うけど。
彼女は、軽度の発達障害だった。そして、鬱病だった。
そんな彼女だったけれど、マイクを持つと別人になった。
歌を歌う時、彼女は何かから解き放たれたように生き生きとしていて、誰よりも輝いていた。
僕は、彼女の歌が嫌いだった。
彼女のギターと歌声だけは、最初からみんなのものだったからだ。
路上ライブで彼女に一目惚れした僕は、足繁く彼女のライブに通っていた。
その年の大学の単位は、半分以上落とした。
だけど僕はそれを後悔していない。
そのくらい、いや、それ以上に価値のある時間だったと思う。
生きづらい、と彼女が僕に零したことがある。
普段、彼女は人に弱音を吐かない人だった。
できないことを、たくさんの努力で埋めようとする人だった。
だけど、彼女がよく泣いていたことを僕は知っている。
赤く腫れた目を見ては、昨日の夜はどのくらい泣いたんだろう、と彼女の見えない辛さに思いを馳せた。
彼女は、きっと誰よりも後ろを向いて、その度に前を向こうとしているひとだった。
彼女について、そう多くは語らない。
僕の恋人、いや正確には恋人だった――三國 陽花はひとよりも苦手なことが多い人間だった。
真夜中に電話がかかってきて、彼女の家まで行ったら「片付けが終わらないから、夏波くん助けて」と一人で泣いていた。
彼女は片付けができなかった。
初デートの日、楽しみでいつもより早く目が覚めた僕は集合時間より早くについたけれど、結局その日、彼女が姿を現したのは、お昼のバラエティ番組が始まる頃だった。
彼女は時間の管理ができなかった。
「ダメだよね、ほんと。こんなんだから……ごめん」
そう言って、彼女は僕によく謝った。
うん、たぶん謝る先は僕じゃないと思うけど。
彼女は、軽度の発達障害だった。そして、鬱病だった。
そんな彼女だったけれど、マイクを持つと別人になった。
歌を歌う時、彼女は何かから解き放たれたように生き生きとしていて、誰よりも輝いていた。
僕は、彼女の歌が嫌いだった。
彼女のギターと歌声だけは、最初からみんなのものだったからだ。
路上ライブで彼女に一目惚れした僕は、足繁く彼女のライブに通っていた。
その年の大学の単位は、半分以上落とした。
だけど僕はそれを後悔していない。
そのくらい、いや、それ以上に価値のある時間だったと思う。
生きづらい、と彼女が僕に零したことがある。
普段、彼女は人に弱音を吐かない人だった。
できないことを、たくさんの努力で埋めようとする人だった。
だけど、彼女がよく泣いていたことを僕は知っている。
赤く腫れた目を見ては、昨日の夜はどのくらい泣いたんだろう、と彼女の見えない辛さに思いを馳せた。
彼女は、きっと誰よりも後ろを向いて、その度に前を向こうとしているひとだった。



