購買で牛乳と焼きそばパンを買い、生徒会室へ向かう。ノックしてすぐ「どうぞ」と返事があって、鼻筋といい声もよく通る。
 室内を囲むよう長テーブルが設置され、その中心に牧野が座っていた。

「いつもここで食べてる?」

 辺りを見回しながら、さっそく取材開始。まずは牧野の人となりを探ろう。

「えぇ、生徒会長の特権で。桐山君は屋上で食べてるんだっけ?」
「顔と名前が一致しないくせによく知ってるな」
「立ち入り禁止区域へ入っている、ハトに餌をやってるって通報があったよ」
「それで? 注意しないのか?」
「してるでしょ、今。もうやめてね」

 反省を求めず、手元のギンガムチェックをほどくと弁当箱が現れる。キャラクターがプリントされていて、なんだか牧野っぽくないような……

「自分で作ってるの?」
「ううん、お兄ちゃんが毎朝作ってくれるの」

 僕も弁当の中身が覗ける席へ腰掛け、紙パックからストローを外す。

「へー毎日作ってくれるなんて、お兄さんは料理が趣味とか?」
「……違う。趣味じゃないし、むしろ苦手まである。だけど作ってってお願いしてるんだ」

 お世辞にも美味しそうと言えない玉子焼きへキスし、含みを帯びた視線を寄越した。
 途端、背中がぞわりとする。

「ブラコンってやつ? それともシスコン?」
「大学生のお兄ちゃんは勉強はもちろん、サークルやバイトで忙しいけど、どんなに夜遅く帰ってきても私のお弁当だけは作ってくれるよ」
「それは凄い」
「ーーねぇ、私はお兄ちゃんに愛されているのかな?」
「は? 愛って、兄妹で?」

 なにやら妙な空気。ツップッ、ストローを挿入する感覚が鈍くなり、力加減を誤ってしまった。机へ水玉ができる。

「次の質問は?」

 牧野はすかさず規則正しく折り目のついたハンカチを差し出す

「だから質問して」

 気付けば含みを帯びた目元はギラつき、身を乗り出し質問しろと繰り返す。

「えっとーー」

 正統派美少女の皮を被った動物に迫られて額にも水玉が生まれる。話の流れで聞くべき事柄は決まっているものの、喉でつかえた。

「はぁー、聞いてくれないなら私が言うね」

 咳払いでやり過ごそうとする姿を見限り、ここで大きなため息。のち、マイクに見立てた拳を自らの唇へ寄せる。

「牧野はお兄さんの事をどう思ってる? うん、私は男性としてお兄ちゃんが好き。
 牧野は血のつながった相手が好きって事? そう、私は呪いみたいな恋をしているの!」

 役立たずなインタビュアーを置き去りにし牧野は一人二役をこなす。コミカルな芝居めいて、その実ねっとり絡みつく『暴いてはいけない何か』に自慢の好奇心がしぼむ。

「ーーおいおい、冗談だろ? 急展開過ぎるってば」

 やっと絞り出せた声が本音だった。

「だってお昼休みは限られてるし。どう? 私のブラックな部分、書けそう?」
「牧野がお兄さんが好き? いやいや、そんなの誰も信じないだろ? 僕も……」
「いかにも嘘っぽい学園七不思議を信じる生徒もいる。生徒会室に飾ってある絵から男が抜け出してくるって不思議、桐山君が考えたんでしょ?」

 頷く。

「学園新聞は面白おかしく、場合によっては捏造する。牧野の話は笑えない、冗談きつい」