振り上げられたその手を掴んだのは、校長だった。木内先生が弁明をしているのをただ眺めている私の肩を誰かが叩く。振り向くその同僚は何も言わず、手でグッと親指の腹を見せて微笑んだ。
 本当になんとかなってしまった。
「助かったよ、ほんとにありがとう」
「これくらい任せなさいよ。いつでも頼ってくれていいんだからね、篠木先生!」
 その後、職員アンケートが行われた。似たような被害をほかの教員も受けていたということが明らかになり木上先生は退職という形で処分を受けたらしい。
「篠木先生、今日は大変だったね。じゃあお疲れ様!」
「うんありがとう、お疲れ様」
 教員の大半が帰宅準備を始めたので、つられて私もバックに手をかける。職員室を駆け足で飛び出す私を、すれ違った校長先生は見逃してくれた。
「ただいま……!」
 上がった息を整えて仏壇の前で手を合わせる。
 今日の私は声のトーンが明るく、自然と笑みがこぼれて自分でも少し気味が悪い。でもこんなに清々したのはいつぶりだろう。
「そうだ、寝る準備しなきゃ」
 私は何も食べることなくベットを整えてダイブする。今日も綺麗に整えた意味をかき消してしまったが、そうすることによって得た快感は物凄く大きかった。
「おやすみなさい」
 目を瞑って、何も考えることなく私は夢の世界に落ちていく——。