ここまで不思議な夢だと、一周回って冷静になるということに気づいた。私の視線は一か所に留まろうとせず、探り探りでとても興味津々だ。
　私の目の前に差し出された一枚のプリントに気づいて、私も手を伸ばす。プリントの奥を握ってしまい指先が触れてしまい驚きで手を引く私に対して、彼がやわらかい笑顔を向けてくれた。なんだかその笑顔に私は心地よさを感じてしまう。
「えー……今回この三限で悩みの負担を減らそう、というそんな内容になっています。二つをテーマとして話し合うからそのプリントに書いてほしいんですが、できますか？」
　プリントに書かれた文章に目を通すと、次第に目をそらしたくなる程の嫌悪に襲われて気分が重く沈む。
　そんな私に気が付いたのか、しゃがみ込み心配そうな眼差しを向けてきた。
「やっぱ無理に書かなくていいです。簡単に誰かに伝えられるなら誰だって苦労しないよな。申し訳ない、気が利かないってよく言われてたのに……」
　彼は頭をかき乱しながら、私に背を向け独り言を呟く。その背中は思ったよりも大きくて、それになんだか少し情けなく見えた。その姿はずっと見守りたくなるような欲が掻き立てられるような…なんとも説明し難い。
「優しいですね。大丈夫です、どうせ夢なんだし書きます」
「……そうか」
　懐かしさに包まれながら鉛筆を握りしめ、そして真剣にプリントと向き合い手を動かしてみる。
　すらすらと出てくる気持ち、書いていて思ったよりも嫌な気にはならなかった。枠の大きさに見合わない私の好きじゃない字。
　こればかりは何度見ても何度練習しても、やっぱり好きになれないのよね。