「——あれ?ここって」
 嫌なほど見慣れた場所。真っすぐ続く廊下の側面には無数の窓。そこを覗けば舞い落ちてゆくピンクの花びら。
 少し歩いていると見えてくる教室。
 この向こうには何が待っているのだろうか、そんな好奇心に駆られて少しの躊躇いもなく扉に触れた。
「失礼しまーす……あ」
 教室の中央には机と椅子がワンセット、寂しそうにぽつりと置かれている。そして教卓前には、何かのプリントと睨めっこしている知らない誰かがいた。
「あの、あなたは」
 その人は教室に足を踏み入れた私を見て少し目を見開いた、かと思えば今度はスーツの襟を正し始めた。その行動をとってしまいそうなのは私の方なのに。
「この三限、あなたの授業を担当する教師です。よろしく」
 私が尋ねることは想定内だったらしく、模範解答のような返答がきた。
 ぼんやりと立ち止まる私の前で、その教師は必要以上の身だしなみを気にしている。
「やっぱり身だしなみ、気になりますか?」
「そうですね、身だしなみなどは教師がお手本にならなければいけないので」
「あの、ここのボタン外れてますけど」
 だんだんと赤く染まっていく彼の耳。その速さは片手で数えられるほど。反応がわかりやすくて、私としてもよっぽど関わりやすい。
「……ありがとうございます」
 そしてタイミングよく授業開始と思われるチャイムが広い教室に響き渡った。
「では、授業を始めるのでそこの席に座ってください」
 わざわざそこ、と言わなくったっていいのではないか。そう疑問を抱いたけれどこれもまた彼のご愛嬌だと思い、おとなしく席に着く。
「それでは今から授業を始めます。私のことは先生と呼んでもらって構いません」
「わかりました。よろしくお願いします」