「ああ、凄く」
 私の片手が自然と彼に伸びて頬に触れ、涙を拭った。私の手が触れたとき、彼は私の手に寄りかかるように体重をかける。
 その姿を見てすごく愛おしくなった。
 それと同時に、彼が幸せならいいなと強く思った。
「ねえ、そっちでは幸せ?」
「まあ普通だ。でもこうやって一度でも教師になれたし、お前に会えたし幸せだよ。それに……こうやって声で気持ちを伝えられるからな」
 喉ぼとけを優しくなでて、チラッと八重歯が見えた。
 ずっとこの笑顔を見守り続けたい。そんな叶わない願望で胸が張り裂けそうなくらい苦しい。
「そろそろ離れなきゃ、俺も戻りたくなくなっちゃうな」
 その背中にまだ触れていたい。もし離れてしまったら、この時間は終わってしまう。
「絶対に幸せになること。それが全部終わったら、俺に報告しに来てくれ」
「……え」
「先生からの宿題。これは俺のためでもあるし、お前のためでもあるから」
 差し伸べられたられた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。私が誘導された席に座ると、繋いだ手が離れた。
「じゃあ、これにて三限すべての授業を終了します」



「ありがとう陽菜、愛してるよ」


「わ、私も!瞬のこと……負けないくらいに愛してるから!ほんとに、」


 ほんとにありがとう——



 目を開けてみても、もう彼はいなかった。あるのはいつもと同じ、彼のいない日常。
 私の頬を伝う一筋の涙。まだ残っている彼の声、温もり。
「神様からの贈り物……」
 そんな言葉が、相応しかった。
 体をひねってカーテンに手を伸ばす。
 今日は、私には眩しすぎるくらいの快晴。
 彼に伝えきれなかった感謝を伝えるために、仏壇に向かう
「え……」


 私は子供のようにその場で泣きじゃくる。私が見たのは、置いていたメモに彼の字で書かれた“愛してる”という四文字だった。


「私も、愛してる」


 あの夢はもう絶対に消えない。だってあなたの愛が声が全てが、私の心に鮮明に刻まれたから。


「瞬、私に会いに来てくれてほんとにありがとう」


 私は瞬の写真の笑顔につられて、思わず微笑んだ。
















                                                   fin.