「こんばんは。思っていたよりも早く来てくれて嬉しいよ]
いつも通りの笑顔で出迎えてくれた彼の声が、なぜか少し震えていた。今更緊張する必要もないのに、なんて私が言えたものじゃないけれど。
「早速で悪いんだが……座ってくれないか」
いつもと違う、そう察して緊張を高めながら指示に従う。私が席に着くや否、彼は一枚の紙を破り捨てて私に一歩、また一歩と近づいてきた。
「……俺にも大切な人がいた」
急な語りに困惑していると、私の気を引くために大きく息をする彼。私はその語り出しと呼吸音にまんまと気を引かれた。
「その人はとてもやさしくて、自分に厳しくて。誰とも関わろうとしなかった俺に仲良くなろうって伝えてくれたんだ。俺も返事をしたかったけどできなくて……それでも彼女は待ち続けてくれた」
言葉に詰まりながらも、しっかり伝える。震えた声が彼の感情を露わにしていた。
「俺は、彼女と出会う前から喋れなかった」
「——え?」
聞かなきゃいけない。そんな感情が先走る。
「人見知りだったから、喋れなかったんですか」
様子を伺うと、彼はゆっくり首を横に振った。
私の心がざわめき始める。
「俺は心因性失声症だったから」
失声症、その聞きなれたワードに私は何も言うことができなかった。
「……声が出なかったってことですか?」
なんの動作もしようとしない彼を見れば、答えははっきりとわかる。
「奇遇ですね。私の彼もそう、だったんです」
だって彼も心因性失声症だった。
いつも通りの笑顔で出迎えてくれた彼の声が、なぜか少し震えていた。今更緊張する必要もないのに、なんて私が言えたものじゃないけれど。
「早速で悪いんだが……座ってくれないか」
いつもと違う、そう察して緊張を高めながら指示に従う。私が席に着くや否、彼は一枚の紙を破り捨てて私に一歩、また一歩と近づいてきた。
「……俺にも大切な人がいた」
急な語りに困惑していると、私の気を引くために大きく息をする彼。私はその語り出しと呼吸音にまんまと気を引かれた。
「その人はとてもやさしくて、自分に厳しくて。誰とも関わろうとしなかった俺に仲良くなろうって伝えてくれたんだ。俺も返事をしたかったけどできなくて……それでも彼女は待ち続けてくれた」
言葉に詰まりながらも、しっかり伝える。震えた声が彼の感情を露わにしていた。
「俺は、彼女と出会う前から喋れなかった」
「——え?」
聞かなきゃいけない。そんな感情が先走る。
「人見知りだったから、喋れなかったんですか」
様子を伺うと、彼はゆっくり首を横に振った。
私の心がざわめき始める。
「俺は心因性失声症だったから」
失声症、その聞きなれたワードに私は何も言うことができなかった。
「……声が出なかったってことですか?」
なんの動作もしようとしない彼を見れば、答えははっきりとわかる。
「奇遇ですね。私の彼もそう、だったんです」
だって彼も心因性失声症だった。


