「ただいまー」
傘を折りたたみ、水滴で飾られたレジ袋を片手に家に帰りつく。
珈琲の香りが染みついたスーツを脱ぎ、ソファーに体を預けた数秒後。私は鉛のように重い体を引きずりながら、キッチンにて食事の準備に取り掛かる。
いい匂いが部屋の中を満たしたせいか、思い出したかのように空腹に襲われた。急ぎ足で壁と棚の隙間に隠れている折り畳み式の机を広げて、テーブルをはさんで彼の前に座った。私たちの前には二人分のシチューにサラダ、そして期間限定の桜のケーキ。これは全部彼の大好物だ。
「ただいま帰りました。今日は瞬の好きなものたくさん用意したの。喜んでくれた?まあ私が用意したものは残さないもんねー、それじゃあいただきます」
私は目をつむり手を合わせ、仏壇の前で五年目の思いを伝える。
「……もうおなかいっぱいになってきちゃったよ。これだと私、明日もシチューになっちゃうわ。まあ?私としては瞬が好きな料理だから全然問題ないんだけど」
写真に写っている瞬の、八重歯を見せる無邪気な笑顔に負けないよう私も対抗して見せた。反応なんて帰ってこないけれどこれが私なりの彼との関り方であり生きるための行動。今日もメモに視線をやるが、特にこれといった変化はなく内心落ちむ自分に嫌気がさす。
時刻は午後十時五十八分、彼の前で今度は真剣に挨拶をする。
「今日はもう早めに寝ちゃうね。じゃあおやすみ、瞬」
一度無意味にベッド整え、乱す。
ぼーっと天井を見つめているうちに、珍しく強烈な眠気に襲われて意識を失うように私は眠りについた。
傘を折りたたみ、水滴で飾られたレジ袋を片手に家に帰りつく。
珈琲の香りが染みついたスーツを脱ぎ、ソファーに体を預けた数秒後。私は鉛のように重い体を引きずりながら、キッチンにて食事の準備に取り掛かる。
いい匂いが部屋の中を満たしたせいか、思い出したかのように空腹に襲われた。急ぎ足で壁と棚の隙間に隠れている折り畳み式の机を広げて、テーブルをはさんで彼の前に座った。私たちの前には二人分のシチューにサラダ、そして期間限定の桜のケーキ。これは全部彼の大好物だ。
「ただいま帰りました。今日は瞬の好きなものたくさん用意したの。喜んでくれた?まあ私が用意したものは残さないもんねー、それじゃあいただきます」
私は目をつむり手を合わせ、仏壇の前で五年目の思いを伝える。
「……もうおなかいっぱいになってきちゃったよ。これだと私、明日もシチューになっちゃうわ。まあ?私としては瞬が好きな料理だから全然問題ないんだけど」
写真に写っている瞬の、八重歯を見せる無邪気な笑顔に負けないよう私も対抗して見せた。反応なんて帰ってこないけれどこれが私なりの彼との関り方であり生きるための行動。今日もメモに視線をやるが、特にこれといった変化はなく内心落ちむ自分に嫌気がさす。
時刻は午後十時五十八分、彼の前で今度は真剣に挨拶をする。
「今日はもう早めに寝ちゃうね。じゃあおやすみ、瞬」
一度無意味にベッド整え、乱す。
ぼーっと天井を見つめているうちに、珍しく強烈な眠気に襲われて意識を失うように私は眠りについた。


