蒼になるまで待とう

「…せっかくなら、学校で待ってればよかった」
私は昨日上地くんが言ってくれた通り、自動販売機に向かった。
けれどもう上地くんはベンチに座っていて、そんな言葉を言われてしまった。
「遅くなってごめん…」
「で、なんで昨日はあんなことしたの?」
上地くんは早速その話をしてほしいようだった。いつも上地くんは、色々な事の近道を辿ろうとする。
私は戸惑ったが、しっかり話そうと思った。
真剣な眼差しからは、本気で私の話を聞いてくれようとしてくれている様子が感じられた。
「あのね、私、紡が死んでから、『水』が見えるようになったの」
「水」は、空間に、立体として見える。
形は直方体や立方体で、気づけば色々なところに浮かんでいて、誰にも見えていないと思う。
ただ、私がその「水」の中を通り抜けると、「水」はいつの間にか無くなっている。
そう説明すると、上地くんは不思議そうな顔をして尋ねた。
「それ、お前が見てる幻覚か何かじゃない?」
率直に浮かんだのは、なぜ?という疑問。幻覚?
「昨日、お前自分で自分の首元押さえてた。何もない所で」
「え…?」
それは、自分で首を絞めようとしていたということだろうか。
黙り込んでしまう私に、上地くんはズバズバと、私に良くも悪くも刺さる言葉を発する。
「死にたいの?」
その言葉の後、上地くんの話し声は途切れた。
死にたい?私が?
私は、死というたったの一文字に震えた。
暑いのに指先が冷たくなってきて、思わず手をぎゅっと握った。
私が、そんなことを思っているわけがない。
紡は私が生きることを応援してくれている。だから、そんなわけない。
私自身が私のことをわかっていないなんて、そんなはずは。
「ごめん、俺が悪い」
気がつくと、上地くんは私に向かってそんなことを言っていた。
「俺が心配しすぎた。先走りしすぎた。…余計なこと考えさせて、ごめん」
上地くんも私と同じように手を握っていた。
「俺も園田と同じようなときがあったの思い出して、勝手に怖くなった」
上地くんの声はいつもより弱々しく、目線も合わせてくれなかった。
思い出したくないような何かが、あるのかな。
「上地くんも、何かあったの…?」
私がそう尋ねても、上地くんは首を横に振って、
「いや、いい。今話さなくていいことだから気にしないで」
と言うだけだった。
しかし、私の頭には瞬間的に、紡のお葬式のときの上地くんがフラッシュバックしてきていた。