「……ねえ、本当にやるの? 椅子取りゲーム」
「当たり前だよ。幼稚園ぶりの因縁の対決だ」
「うん……勝負には負けたくない。せっかく初めて、わたしを意識して競ってくれるんだもん」
僕たちはゆっくりと椅子の周りを歩く。けれど音楽もなく、どちらかが先に座れば終わる、ルールも何もないゲームだった。
それでも、僕たちは座ろうとすることなく、椅子ではなく互いの姿を見ながら言葉を交わし続ける。
「それじゃあ、座りたいタイミングで座ろっか」
「うん……でも、やっぱり生き返るのは花宮くんだよ。そもそも、事故もわたしの巻き添えだし……志望校に受かって、花宮くんにはこれからも未来があるんだから」
負けず嫌いの彼女が、最後の直接対決で負けようとしている。敗者として、死にゆく自分のことを忘れて欲しがっているように見えた。そのことが、なんだか悔しかった。
「そっか、勝負は勝負だもんね……。ごめんね、雪原夢莉さん」
「……っ!」
人生は椅子取りゲーム。本当に欲しいものなら、相手を蹴落としてでも自分が座るしかないのだ。だから僕は、決意する。
「え……?」
「おめでとう、きみの勝ちだよ」
「どう、して……?」
その肩を押して、僕は彼女を椅子に座らせた。事態が飲み込めず呆然と見上げる彼女に、僕は微笑む。
「……きみに生きていて欲しいって、思っちゃった。僕が死んだら進学の枠も一つ空くだろうし……繰り上げ合格になると良いね」
「そんな……待って、わたし、こんな勝ちは望んでない……! わたしだって、花宮くんに生きていて欲しい……」
せっかく勝てたのに泣きじゃくる彼女に、僕は負けたけれど笑みを浮かべる。これではあべこべだ。
僕は彼女に貰った飴を口にして、あの頃の悔し涙とは違う甘い味に満足する。
「……泣かないでよ。きみが笑ってくれたら、僕も幸せだから」
そうして最後の椅子取りゲームは、死の縁から生き返った彼女と望みを叶えた僕、二人の勝者によって幕を閉じた。



