「マジっすか!? ありがとうございます!!」
片倉の表情がぱっと明るくなった。ふてくされたり謝ったり走ったり笑ったり忙しい男だ。紡木は片倉に釣られて思わず笑ってしまう。
「そうだ、明日霊界庁の就労相談課に行こうと思って、その時に片倉さんいたら声掛けようと思ったんですけど、ちょうど良かった。試しにひとつモンブラン作ってみたんで、いかがですか? っていうお誘いなんですけど」
「え、うそ、モンブラン作ってくれたんですか?」
「何だかとてもモンブランお好きそうだったんで」
「好きです。大好物です。気になってた店のモンブランが食えなくてそれが未練になってるくらいですから」
「それは筋金入りですね」
片倉のモンブランに対する思いがそこまでとは思わなかった。生きていた頃の未練が残ると言えば、人生の一部に相当するような大きな出来事だというのに。
「お金ちゃんと払いますから」「試してみただけなので、お代は要りませんよ」「そういうわけには」
押し問答が続いて、じゃあお言葉に甘えます、と片倉は頭を下げた。
立ち話もなんですからと、バックヤードを兼ねている小さな事務室に片倉を通す。紡木やスタッフが休憩をしたり、業者と打ち合わせをしたりする場所だ。
事務室の椅子は、片倉には小さいようで申し訳ない。こんな健康そうな若者が早くに霊界へ来るなんてどんな事情があったのだろう。紡木は気になった。
「片倉さんはどういう経緯でこの霊界に?」
紡木の問いかけに、片倉は持っていた鞄を足元へ置きながら答えた。
「市役所の仕事を終えて、モンブランが人気だと雑誌に載っていたケーキ屋……パティスリーって言うんですね。パティスリーへ行く途中でバイクで事故っちゃったんです。通行人を避けようとして」
「それでモンブランに未練があるわけですか」
「そうなんです。口溶けが良くて、いくらでも食べられるモンブランなんて言われたら、気になって未練も残るじゃないですか」
そこまで思われたらモンブランも本望だろう。紡木は冷蔵庫にしまっておいたふたつのモンブランを取り出して、事務室のテーブルに置いた。
「そのモンブランに適うか分かりませんが、作ってみました。口に合うと良いんですけど」
うわ! 片倉の目が輝いてモンブランを見つめる。
「霊界へ来て一年、美味しいモンブランに出会うのが夢でした……いただきます」
モンブランの三角錐の山にフォークが入り、丁寧にすくい取られる。フォークを持つ片倉の長い指が少し節ばっていて、綺麗だなとつい見とれた。
「この形……雑誌で見たのと同じだ……」
呟きながら片倉はそっとモンブランを口に入れた。目を閉じて口の中のクリームを味わう姿に、紡木の胸はドキドキする。緊張している。
「……美味い……本当に美味い!」
片倉の表情がぱっと明るくなった。ふてくされたり謝ったり走ったり笑ったり忙しい男だ。紡木は片倉に釣られて思わず笑ってしまう。
「そうだ、明日霊界庁の就労相談課に行こうと思って、その時に片倉さんいたら声掛けようと思ったんですけど、ちょうど良かった。試しにひとつモンブラン作ってみたんで、いかがですか? っていうお誘いなんですけど」
「え、うそ、モンブラン作ってくれたんですか?」
「何だかとてもモンブランお好きそうだったんで」
「好きです。大好物です。気になってた店のモンブランが食えなくてそれが未練になってるくらいですから」
「それは筋金入りですね」
片倉のモンブランに対する思いがそこまでとは思わなかった。生きていた頃の未練が残ると言えば、人生の一部に相当するような大きな出来事だというのに。
「お金ちゃんと払いますから」「試してみただけなので、お代は要りませんよ」「そういうわけには」
押し問答が続いて、じゃあお言葉に甘えます、と片倉は頭を下げた。
立ち話もなんですからと、バックヤードを兼ねている小さな事務室に片倉を通す。紡木やスタッフが休憩をしたり、業者と打ち合わせをしたりする場所だ。
事務室の椅子は、片倉には小さいようで申し訳ない。こんな健康そうな若者が早くに霊界へ来るなんてどんな事情があったのだろう。紡木は気になった。
「片倉さんはどういう経緯でこの霊界に?」
紡木の問いかけに、片倉は持っていた鞄を足元へ置きながら答えた。
「市役所の仕事を終えて、モンブランが人気だと雑誌に載っていたケーキ屋……パティスリーって言うんですね。パティスリーへ行く途中でバイクで事故っちゃったんです。通行人を避けようとして」
「それでモンブランに未練があるわけですか」
「そうなんです。口溶けが良くて、いくらでも食べられるモンブランなんて言われたら、気になって未練も残るじゃないですか」
そこまで思われたらモンブランも本望だろう。紡木は冷蔵庫にしまっておいたふたつのモンブランを取り出して、事務室のテーブルに置いた。
「そのモンブランに適うか分かりませんが、作ってみました。口に合うと良いんですけど」
うわ! 片倉の目が輝いてモンブランを見つめる。
「霊界へ来て一年、美味しいモンブランに出会うのが夢でした……いただきます」
モンブランの三角錐の山にフォークが入り、丁寧にすくい取られる。フォークを持つ片倉の長い指が少し節ばっていて、綺麗だなとつい見とれた。
「この形……雑誌で見たのと同じだ……」
呟きながら片倉はそっとモンブランを口に入れた。目を閉じて口の中のクリームを味わう姿に、紡木の胸はドキドキする。緊張している。
「……美味い……本当に美味い!」



