勢い勇んで店を出てきたが、霊界庁は一体どこにあるんだ。紡木はきょろきょろとあたりを見回した。
すべてが真っ白だが、周辺の店構えに見覚えはある。たしかに紡木のパティスリーがある商店街だ。
人の気配はやっぱりない。そりゃそうだろう。ここに人がいるってことは、商店街に住む人が死んでしまうことになるのだ。
真っ白な歩道を歩き進めると交差点に出た。道路脇の標識に、白い矢印が表示されている。
横断歩道を渡り、矢印の方向へ進んでみると、間もなく大きな白い建物に行き当たった。
霊界庁。そこだけはだれの目にも分かるように黒字で書かれている。紡木は意を決して建物の入り口、自動ドアをくぐった。
人がいる。多くはないが、窓口や記入台に人の姿があった。手続きで行く市役所のような雰囲気だ。紡木と同じように死んでこの霊界に連れて来られた人々なのだろう。
彼らを横目に見ながら、登録の方はこちらという表示に従って五番窓口へ向かう。
「住民登録ですね。書類の記入はお済みですか」
窓口にいた女性が紡木に尋ねた。グレーのスーツを着て、ネームストラップを付けている。霊界庁住民課。
「いえ、あの、まだですけど。一体ここはどういうところなんでしょうか」
「あ、説明がまだだったんですね。失礼しました。スタッフを呼びますのでお待ち下さい」
少しして、他の来庁者を案内していた男性スタッフが慌てて走ってきた。
「すみません、混雑してまして……あ」
「あ、さっきの」
走ってきたのは、モンブランの男だった。
紡木のパティスリーで文句を垂れた男は、霊界庁の職員だったのか。なんとなくむっとした空気を思い出しながら、どうも、とだけ口にした。
「さっきはすみませんでした。白い外観ってことは霊界に来られたばかりの方だって言うのに、つい我を忘れてしまって」
「白い外観?」
「霊界に来たばかりだと、全部が白いんです。そこから、その人の記憶にあるものが少しずつ色を取り戻していきます。たぶん、そろそろお店も元の色に戻っていると思います」
「思い入れのあるもの……」
「実はここへ来てまだ一年しか経っていないので、段取りが悪くてすみません。霊界の説明を動画にしたものがありますので、そちらの長椅子に掛けて下さい」
さっき店で見た時は中ポケットにしまってあったネームストラップが表に出ている。片倉壮真というのが彼の名前だった。
紡木は言われるがままに、片倉が操作するモニター画面に目を向けた。
すべてが真っ白だが、周辺の店構えに見覚えはある。たしかに紡木のパティスリーがある商店街だ。
人の気配はやっぱりない。そりゃそうだろう。ここに人がいるってことは、商店街に住む人が死んでしまうことになるのだ。
真っ白な歩道を歩き進めると交差点に出た。道路脇の標識に、白い矢印が表示されている。
横断歩道を渡り、矢印の方向へ進んでみると、間もなく大きな白い建物に行き当たった。
霊界庁。そこだけはだれの目にも分かるように黒字で書かれている。紡木は意を決して建物の入り口、自動ドアをくぐった。
人がいる。多くはないが、窓口や記入台に人の姿があった。手続きで行く市役所のような雰囲気だ。紡木と同じように死んでこの霊界に連れて来られた人々なのだろう。
彼らを横目に見ながら、登録の方はこちらという表示に従って五番窓口へ向かう。
「住民登録ですね。書類の記入はお済みですか」
窓口にいた女性が紡木に尋ねた。グレーのスーツを着て、ネームストラップを付けている。霊界庁住民課。
「いえ、あの、まだですけど。一体ここはどういうところなんでしょうか」
「あ、説明がまだだったんですね。失礼しました。スタッフを呼びますのでお待ち下さい」
少しして、他の来庁者を案内していた男性スタッフが慌てて走ってきた。
「すみません、混雑してまして……あ」
「あ、さっきの」
走ってきたのは、モンブランの男だった。
紡木のパティスリーで文句を垂れた男は、霊界庁の職員だったのか。なんとなくむっとした空気を思い出しながら、どうも、とだけ口にした。
「さっきはすみませんでした。白い外観ってことは霊界に来られたばかりの方だって言うのに、つい我を忘れてしまって」
「白い外観?」
「霊界に来たばかりだと、全部が白いんです。そこから、その人の記憶にあるものが少しずつ色を取り戻していきます。たぶん、そろそろお店も元の色に戻っていると思います」
「思い入れのあるもの……」
「実はここへ来てまだ一年しか経っていないので、段取りが悪くてすみません。霊界の説明を動画にしたものがありますので、そちらの長椅子に掛けて下さい」
さっき店で見た時は中ポケットにしまってあったネームストラップが表に出ている。片倉壮真というのが彼の名前だった。
紡木は言われるがままに、片倉が操作するモニター画面に目を向けた。



