翌朝、紡木は早起きをして厨房に立っていた。今日もあとから片倉が手伝いに来てくれる。それまでに今日の分のケーキ作りを終えてしまおう。
カランコロン「牧瀬さーん、書留です。印鑑お願いします」
え、また? 紡木は何度目かになるやりとりをしたあと、書類封筒を受け取った。差出人は霊界庁。今度は何だろう。
「天界移籍勧告取り消し受理のお知らせ」
新しい未練が生まれたという訴えを受理し、特例として天界移籍勧告を取り消しするというものだった。
「やった……!」
紡木はガッツポーズを決める。そこへ、店へ駆け込んでくる片倉の姿が目に入った。
「やりましたね!」
「片倉さんのところにも来たんですね」
「来ました」
紡木が持っている書類と同じものを片倉が見せる。
新しい未練。片倉と離れたくないという未練。霊界のためにケーキを作り続けたいという未練。紡木の新しい未練は、きっと終わることがない。
「片倉さんの未練は?」
「俺は、牧瀬さんと離れたくないという未練です。あと、牧瀬さんのモンブランを食べ続けたいという未練。解決することはないですよ」
紡木と同じだ。同じ思いを共有しあえることがどんなに幸せか、紡木は今身を以て知った。そっと紡木の肩に片倉の手が置かれる。
「牧瀬さん、これからも俺のためにモンブランを作ってくれますか?」
作るよ。笑顔で言おうとして、紡木の目からふいに涙が溢れる。好きな人のために作る洋菓子。この霊界で片倉に出会えて本当に良かった。
肩に置かれた片倉の手が、優しく紡木の顎を持ち上げる。涙で濡れた顔を見せるのは恥ずかしい。小さく身をよじった紡木の顔を、片倉は両手で優しく包んだ。片倉の顔が近づいて、紡木は目を閉じる。
唇に優しく触れられて、紡木は堪らず片倉の胸に顔を埋める。片倉はそれを受け止め、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「これからも、末永くよろしくお願いします」
霊界パティスリーの開店まで、あと少し。あと少し、恋人と甘い時間を過ごさせて。
Fin.
カランコロン「牧瀬さーん、書留です。印鑑お願いします」
え、また? 紡木は何度目かになるやりとりをしたあと、書類封筒を受け取った。差出人は霊界庁。今度は何だろう。
「天界移籍勧告取り消し受理のお知らせ」
新しい未練が生まれたという訴えを受理し、特例として天界移籍勧告を取り消しするというものだった。
「やった……!」
紡木はガッツポーズを決める。そこへ、店へ駆け込んでくる片倉の姿が目に入った。
「やりましたね!」
「片倉さんのところにも来たんですね」
「来ました」
紡木が持っている書類と同じものを片倉が見せる。
新しい未練。片倉と離れたくないという未練。霊界のためにケーキを作り続けたいという未練。紡木の新しい未練は、きっと終わることがない。
「片倉さんの未練は?」
「俺は、牧瀬さんと離れたくないという未練です。あと、牧瀬さんのモンブランを食べ続けたいという未練。解決することはないですよ」
紡木と同じだ。同じ思いを共有しあえることがどんなに幸せか、紡木は今身を以て知った。そっと紡木の肩に片倉の手が置かれる。
「牧瀬さん、これからも俺のためにモンブランを作ってくれますか?」
作るよ。笑顔で言おうとして、紡木の目からふいに涙が溢れる。好きな人のために作る洋菓子。この霊界で片倉に出会えて本当に良かった。
肩に置かれた片倉の手が、優しく紡木の顎を持ち上げる。涙で濡れた顔を見せるのは恥ずかしい。小さく身をよじった紡木の顔を、片倉は両手で優しく包んだ。片倉の顔が近づいて、紡木は目を閉じる。
唇に優しく触れられて、紡木は堪らず片倉の胸に顔を埋める。片倉はそれを受け止め、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「これからも、末永くよろしくお願いします」
霊界パティスリーの開店まで、あと少し。あと少し、恋人と甘い時間を過ごさせて。
Fin.



