事務室で、片倉のために作ったモンブランをすすめる。いつものごとく片倉は目を輝かせて喜んでくれた。
しばらく片倉が食べている様子を眺め、紡木はそっと口を開いた。
「片倉さん、俺のところにも来ました」
「何がですか?」
「天界移籍勧告です」
「え……」
片倉の表情が固くなった。持っていたフォークを取り落としそうになって、慌てて紡木が手を伸ばす。
ふと、片倉の手に紡木の手が重なり、片倉が「わ、わ、すいません」と取り乱す。紡木はおかしくなってふっと笑った。
思えば片倉はいつも紡木を楽しませてくれる。一緒にいて幸せな気分になれるのだ。死んでからこんな気持ちになれるなんて想像もつかなかった。
「生きていた時の未練が、いつの間にか解決していたみたいで。俺も成仏出来ることになりました」
「そうですか……」
だけど、それを未練と言うのなら俺には今新しい未練がある。片倉へ気持ちを告げることだ。成仏して二度と会えなくなる前に、言っておきたい。
「片倉さん、俺……」
「牧瀬さん、俺牧瀬さんに言いたいことがあります」
片倉がフォークを置いて、紡木の方へ向き直る。
「俺、牧瀬さんのモンブランを食べて、生きていた時の未練は解決しました。だけど、俺には新しい未練が出来てます。俺、牧瀬さんのことが好きです」
「え?」
思いもよらない言葉が紡木の耳に飛び込んできた。俺のことが好き?
「牧瀬さんが、本当にケーキ作りが好きなんだなってのが伝わってきて……そんな牧瀬さんを横で見るうちに、離れたくないなって。だけど、そんなん迷惑かもしれないし。せめてパティスリーのオープンまでいるなら不自然じゃないだろうって。だけど、牧瀬さんも天界へ移籍してしまうんなら……」
「俺も同じです!」
思わず紡木は声を上げていた。片倉も同じ気持ちでいてくれたことに、紡木は込み上げてくる思いを抑えられない。
「片倉さんのことが好きです。俺も、片倉さんのことが未練になってます。成仏したらもう二度と会えないと聞きました。そんなの嫌だ。俺は、出来れば、片倉さんとずっとここにいたい」
年甲斐もなく思いの丈を打ち明けた。後悔はしていない。生きていた時に我慢していたことを、霊界に来てまで我慢する必要はないのだ。片倉に好きだと思われていた、そのことが紡木の心を強くした。
「牧瀬さん、明日行きませんか? 霊界庁へ」
「何をですか」
「天界移籍勧告の取り消しをしに」
「そんなことが出来るんですか!?」
「分かりません。俺もまだ霊界庁のルールは覚えきれていないので。だけどお互いが同じ気持ちだったら、もしかしたらと思って」
「行きましょう」
可能性がないわけじゃない。今の自分たちに出来ることは何でもしてみよう。片倉とふたりなら、どんな困難も乗り越えていける。紡木は確信した。
しばらく片倉が食べている様子を眺め、紡木はそっと口を開いた。
「片倉さん、俺のところにも来ました」
「何がですか?」
「天界移籍勧告です」
「え……」
片倉の表情が固くなった。持っていたフォークを取り落としそうになって、慌てて紡木が手を伸ばす。
ふと、片倉の手に紡木の手が重なり、片倉が「わ、わ、すいません」と取り乱す。紡木はおかしくなってふっと笑った。
思えば片倉はいつも紡木を楽しませてくれる。一緒にいて幸せな気分になれるのだ。死んでからこんな気持ちになれるなんて想像もつかなかった。
「生きていた時の未練が、いつの間にか解決していたみたいで。俺も成仏出来ることになりました」
「そうですか……」
だけど、それを未練と言うのなら俺には今新しい未練がある。片倉へ気持ちを告げることだ。成仏して二度と会えなくなる前に、言っておきたい。
「片倉さん、俺……」
「牧瀬さん、俺牧瀬さんに言いたいことがあります」
片倉がフォークを置いて、紡木の方へ向き直る。
「俺、牧瀬さんのモンブランを食べて、生きていた時の未練は解決しました。だけど、俺には新しい未練が出来てます。俺、牧瀬さんのことが好きです」
「え?」
思いもよらない言葉が紡木の耳に飛び込んできた。俺のことが好き?
「牧瀬さんが、本当にケーキ作りが好きなんだなってのが伝わってきて……そんな牧瀬さんを横で見るうちに、離れたくないなって。だけど、そんなん迷惑かもしれないし。せめてパティスリーのオープンまでいるなら不自然じゃないだろうって。だけど、牧瀬さんも天界へ移籍してしまうんなら……」
「俺も同じです!」
思わず紡木は声を上げていた。片倉も同じ気持ちでいてくれたことに、紡木は込み上げてくる思いを抑えられない。
「片倉さんのことが好きです。俺も、片倉さんのことが未練になってます。成仏したらもう二度と会えないと聞きました。そんなの嫌だ。俺は、出来れば、片倉さんとずっとここにいたい」
年甲斐もなく思いの丈を打ち明けた。後悔はしていない。生きていた時に我慢していたことを、霊界に来てまで我慢する必要はないのだ。片倉に好きだと思われていた、そのことが紡木の心を強くした。
「牧瀬さん、明日行きませんか? 霊界庁へ」
「何をですか」
「天界移籍勧告の取り消しをしに」
「そんなことが出来るんですか!?」
「分かりません。俺もまだ霊界庁のルールは覚えきれていないので。だけどお互いが同じ気持ちだったら、もしかしたらと思って」
「行きましょう」
可能性がないわけじゃない。今の自分たちに出来ることは何でもしてみよう。片倉とふたりなら、どんな困難も乗り越えていける。紡木は確信した。



