「生きていた時の未練を確認したいとのことですね。順番でモニタールームにご案内しますので、番号札を取ってお待ち下さい」
 三番窓口でそう言われ、紡木は待合いのベンチに腰掛けた。現在の下界の様子をチェック出来る特殊なモニターがあるという。

 名前を呼ばれ、個人情報を保護出来る個室に入る。テレビのようなモニターに、コントローラーとヘッドフォンが接続されていた。
「牧瀬さんの生前の行動記録を反映した画面が映し出されます。細かい部分は、手元のコントローラーでカメラを操作して下さい。繰り返し切り替わりますので、未練の心当たりがある場所を探してみて下さい」
「分かりました」

 ヘッドフォンを装着すると、自然にモニターの電源が入った。四分割されていて、紡木に関係する場所が四ヶ所モニタリングされている。
 実家、パティスリーの一階、そして二階、事故のあった現場。
 現場にはたくさんの花束が供えられていた。紡木の他にも犠牲になった人がいることがうかがえる。泣きながら現場に手を合わせている人もいた。家族だろうか。
 実家の映像に視線を移せば、もう葬式まですべて済ませたようで、仏壇に紡木の顔写真が飾られていた。母は早くに他界しているので、父と弟が手配をしてくれたようだ。弟は結婚して子どももいるので、仲良くやっていってほしい。しっかりした父と弟だから心配はしていない。
 パティスリーの一階には、貼り紙が貼ってあった。「都合により閉店いたします。ご愛顧ありがとうございました」だれが貼ってくれたのだろう、父だろうか。

「あれ? ドアが開いてる……?」
 友成さんとデートへ行く前に売上金はすべて銀行に預けてきたし、戸締まりもきちんとしてきた。泥棒に入られても盗まれるものは何もないが。
 ふと、三つめのモニターで何かが動いたような気がして、視線を集中させた。コントローラーを使って拡大させてみる。
 二階にある紡木の部屋だった。そこに、だれかが入り込んでいる。カメラを操作して、解像度を上げた。

「友成さん……!」
 緊急時に応援を頼めるように、店の合鍵を渡していたのを思い出した。きっと今回の件でもいろいろと尽力してくれたのだろう。表の貼り紙も友成が貼ってくれたのに違いない。
 それにしても、友成は妙な動きをしていた。クローゼットや仕事机の引き出しを開閉している。何か探しているようだ。

 本棚に向かった友成は、それを手に取り、そそくさと自分が持ってきた鞄の中に入れた。まるで人の目からそれを隠すようだった。
 貝殻でデコレートされた写真立てには、友成と紡木の寄り添う写真が飾ってある。それを取りに来たのだ、友成は。
 紡木の部屋を出て一階に降りると、友成は周囲に人がいないことを確認してから外に出た。
 モニタリングは続く。友成は自分のオフィスへ着くと、写真立てから写真を外してシュレッダーに掛けた。写真立てはゴミ箱に捨てた。